特許事務所の実務とは?

公開日: 2024-04-14

特許事務所ってどんなところ?

特許事務所は、クライアントから依頼を受け、士業である弁理士が特許出願や意匠・商標出願などの知的財産権関連業務の全般を行うところです。
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特許事務所はどんな組織構成?

対応領域から、特許部門と意匠・商標部門に分かれた組織を構成する(あるいは領域によって担当者を分ける)ことが一般的です。
また、出願案件は、出願先・方式によって国内案件(日本国内の出願)、内外案件(日本国内から海外への出願)、外内案件(海外から日本国内への出願)と三種類に分かれます。内外・外内などの外国案件の場合は、外国代理人と連携して業務を行います。
大規模事務所では国内・内外・外内で分業化されることが多く、クライアントや技術分野に応じてさらに部門が細分化されますが、中小規模の事務所では一人で様々な業務を広く担当することが多いのが特徴です。

特許事務所ではどんな仕事をする?

大きくは以下の3つが主な業務となります。
1)権利化
クライアントから依頼を受けて、ヒアリングをしながら、権利化できそうな技術・アイディアを発掘し、特許明細書を書いて特許庁に出願します。出願〜登録に至るまでの中間対応等も行います。

2)権利活用・係争(訴訟対応、鑑定など)
権利化した権利を活用する文脈から、クライアントの特許権を他社製品が侵害しているか(あるいは逆にクライアントの製品が他社特許権を侵害していないか)を確認する侵害鑑定を行うこともあります。
また、特許権の有効・無効を判断する鑑定をしたり、競合相手の特許権を潰すために異議申立や無効審判をすることもあります。
権利侵害の争いが発生した場合には、係争対応も発生します。大規模事務所は弁理士のほか、弁護士が所属している場合もあり、この場合は特許事務所でも訴訟などの係争案件を受任しやすくなります。

3)調査・分析
出願前の調査(先行技術調査)や、既に成立した権利を無効にするための調査(無効調査)のほか、いわゆるIPランドスケープのような分析サービスを提供している事務所もあります。

事務所の規模によって業務内容が大きく変動することはありませんが、小規模のクライアントで知財部門・機能が存在しないケースなどは、上記の業務よりもさらに幅を広げ、知的財産権全般の制度説明や、知的財産権に留まらず法律に関する総合的な一次相談窓口を請け負うこともあります。

特許事務所にいるのはどんな人?

多くの特許事務所は役割を技術部門と事務部門に分け、それぞれ以下のような方が働いています。
<技術部門>
・弁理士
・特許技術者:弁理士の補助者として、明細書作成等のサポートを行う
<事務部門>
・特許事務スタッフ:特許庁手続、顧客とのやりとり、案件管理などを行う
・コーポレートスタッフ:一般企業と同じく、労務管理・経理などのコーポレート業務を行う

大規模事務所の場合は、上記のほか、図面作成者、翻訳者、調査担当、弁護士、外国弁理士などが組織内にいるケースもあります。中規模事務所の場合は、全て包括して弁理士が担当することが多く、大規模事務所と比較すると弁理士一人の守備範囲は広いといえるでしょう。

特許事務所では、どんな相手と仕事をするの?

特許事務所で働く上でコミュニケーションをとる必要のある方は、所内にとどまらず多岐にわたります。
<特許庁>
・審査官、審判官

<クライアント>
・企業の知財担当者、発明者
・(知財担当がいない企業であれば)社長や役員など
・大学・研究機関
・クライアントとの仲介者:シンクタンク、金融機関など

<委託先>
・翻訳会社
・図面作成・調査会社
・外部弁理士・弁護士:案件の内容や性質によって、協力要請があることも
・外国弁理士:外国出願を行う際の現地代理人

<資格者同士のつながり・団体>
・日本弁理士会
・弁理士の各会派
・国際学会

特許事務所に就職するルート・方法

実際に特許事務所に就職したいと考える場合、どのようなルートがあるのでしょうか。
・新卒採用で入所
・技術者、研究者から転身
・企業の知財部門からの転職
・特許事務所から特許事務所への移籍
などのルートが一般的ですが、
・特許庁審査官から特許事務所へ(7年審査官として在庁すると弁理士資格が得られるため)
・調査会社・コンサルから特許事務所へ
というルートもみられます。


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特許事務所の給与体系って?

特許事務所の給与体系はどのようになっているのでしょうか。企業との違いはあるのでしょうか。
大きくは以下3つの給与体系があり、どの体系を採用するかは特許事務所の経営方針・戦略によって決定されます。

1)固定給制:毎月定額の給与が支払われる
2)歩合制:売上に応じた給与が支払われる
3)バランス制:固定給制+ノルマを超えた分は歩合制
ベースの体系を決めた上で、作業工数に応じたポイント制などでインセンティブ設計をしている事務所や、業務内容によっては雇用形態を業務委託に変更する事務所もあるようです。
特許事務所への就職をお考えの方は、入所を希望する事務所がどのような給与体系なのか、自分のライフスタイルと一致しそうか、選考等の過程で確認してみることをお勧めします。

なお、既に実務経験のある方の転職の場合は、「特許事務所ではどんな仕事をする?」で触れた業務のほか、事務所内の所員教育など、直接売上には貢献しない業務も一定程度発生します。このような業務においても報酬が発生する給与体系やインセンティブ設計がなされているのかも確認しましょう。

弁理士資格取得のタイミング

特許事務所で働く上で、弁理士資格を取得するタイミングはいつが望ましいのでしょうか。

1)入所前に弁理士資格を取得するケース
弁理士試験の学習を始めてから合格するまで、3〜4年かかるというデータがあります。
入所前から資格取得に向け勉強し、資格をとっておくと、入所後の業務がスムーズに始められます。一方で入所前の前職に注力する時間が減ってしまう可能性があること、実務知識のないゼロベースからの学習は難易度が高いというデメリットは理解しておきましょう。

2)入所後に弁理士資格を取得するケース
知財業界への就職・転職が初めての方は、こちらのケースが一般的です。入所してすぐ勉強を始め、実務の負荷が少ない間にスピーディーに資格を取得するのが望ましいです。実務と実際の試験内容は乖離することもあるため、実務における知識・経験がつきすぎると試験に受かりにくくなる場合もあり、入所後すぐに勉強を始めて試験に合格できるとスムーズです。なお、無資格・未経験での特許事務所への転職は、年齢を重ねるごとに難しくなりますので、その点は注意が必要です。

必要なスキル

特許事務所で働くために必要なスキルはどのようなものでしょうか。ハード面のスキルでは、以下の三要素が重要とされています。
・知財知識:知的財産権に関する全般的な知識
・技術知識:クライアントの技術領域に関する知識
・事業知識:クライアントのビジネスに関する知識
これらの知識は実務を通して得られるものですので、クライアントへのヒアリングなどを通じて、自発的に学びの機会を得ていくことがスキルアップにつながります。

その他、ソフト面でのスキルや、汎用的なテクニックとしては、以下のようなものを意識して習得していくと、仕事に役立つでしょう。
・フットワークの軽さ:クライアントによってビジネスモデルや技術領域は変わるため、常に新しいことを学び続ける意欲と柔軟性は必要
・タイピングスキル:明細書などの文書作成が多い業務なので、タイピングスキル・スピードは磨いておくと良い
・接客スキル:クライアントへのヒアリング能力や、クライアントが満足する受け答えができるコミュニケーション能力

特許事務所で働くのに向いている人ってどんな人?

特許事務所の業務は広範にわたるため、どのような事務所に入所し、どのような仕事を担当するかにも左右される部分はありますが、
・自分の責任で仕事を完結させたい人
・クライアントと関わること、向き合いを楽しめる人
・企業の知財部門はコストセンターの色合いが強いため、特許事務所で自身の結果が直接的に事務所や自身の売上につながる実感を得たい人
などは、特許事務所への就職・転職を検討してみても良いのではないでしょうか。


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