企業知財部の実務とは?

公開日: 2024-04-20

企業の知財部とは?

知財部は、自社事業にとって有益な技術情報やナレッジ・ノウハウ、ブランド力など、企業の中の「無形資産」を取り扱う部門です。実体が見えていない無形資産が、会社の企業価値としてステークホルダーに評価されるようにしたり、会社の事業に有益に活用できるよう、知的財産権法やプラクティスを理解した上で、専門的な支援をする部門です。
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企業の規模によって、違いはある?

大企業であれば既に知財部門が組織化されており、関係部門と合意・調整した役割に沿っているため、知財活動の実行部分に目が向きやすいです。
一方、ベンチャー・中小・スタートアップ企業の場合は、経営層や事業部門が無形資産の価値や取り扱いを十分に認識できていなかったり、知財部門が組織化されていないようなケースも多くみられます。そのため、経営戦略の策定に踏み込んでどのように知財を捉え、活用していくかを知財担当が自発的に訴求する必要があります。

知財部の業務範囲って?

知的財産権全般を知財部で取り扱うこともありますが、企業の業種・業界によって、知財部の業務範囲は大きく異なります。
メーカーなど、技術開発を重視する業種では、知財部の中でも特許を取り扱うチームが中心となります。商標・著作権は知財部門でなく、法務部門が所管するケースも多くあります。
アパレルなど、ブランド保護を重視するような業種であれば、商標部門が独立する場合もあります。
業種によって、知的財産権の中でも重視すべき権利の種類や内容、ウエイトが変わるため、業種に合わせた組織体制と知財担当の配置がなされます。

知財部の業務内容って?

知財部で行う業務の内容は多岐に渡りますが、ここでは主に特許業務について触れていきます。

<特許業務>

・発明の発掘・創発
発掘:技術開発部門とコミュニケーションをとり、自社事業にとって有益な技術情報をキャッチアップし、ノウハウや秘匿すべきものを適切に仕分けながら出願権利化を図るべきものを見定めていきます。
創発:技術成果がない状態から、事業や研究開発戦略に伴走し、今後生まれる成果の権利化を示唆し、方針の段階から発明を計画的に生み出していく方法です。

・出願
発掘・創発した技術や発明が特許として権利化できるかを確認し、ビジネスに活用できるかを前提として考慮した上で、出願を企画・推進します。知財部では、権利化の方針策定やメインクレームの作成、特許明細書のチェックを主に担い、出願書類の作成や特許庁への手続きは外部の特許事務所に依頼することが一般的です。
これら出願にかかる業務を企業で全て内製している企業はそれほど多くないですが、案件によって企業内で内製するか、外注するかを取捨選択している企業もあります。

・権利化
出願してからも、権利化までスムーズに進むとは限りません。特許庁の審査によって通知される拒絶理由に対してどういった対応を行うのか、権利範囲の落としどころの最終判断を行う中間対応が、知財部では定常業務として比重が大きいのが特徴です。
外国出願が発生する企業の場合は、出願した国の分だけ対応が必要となるために、どの案件を外国出願するのか、どの国まで出願するのかを、事業や研究開発戦略・計画と照らし合わせ、事業部門や研究開発部門とコミュニケーションを取りながら、方針を決めていきます。
どの国で事業を展開し、知財を活用するかは、経営層や事業部門の意向によるところが大きいですが、国により法制度も異なるため、法的視点を踏まえた上での知財部門としてのアドバイスは大変重要なものです。

・調査
技術動向調査:業界の状況や技術トレンドを知財情報の切り口から俯瞰的に見るための調査
先行技術調査:出願前に審査で指摘され得る文献を把握しどのような権利が取れるかを調査
侵害予防調査:他社の特許権を侵害しないための(侵害しそうであれば事前に対策できるよう)調査。他社の特許侵害リスクが大きい業種の場合には、慎重かつ精緻に行われることが多い
無効資料調査:他社の特許権を無効にするための攻撃材料を探し出す調査

調査業務については、技術者自身が自らの研究との差異を確認して行う場合や、知財部が行う場合、専門の調査会社に外注して対応してもらう場合など、企業の規模や組織構成によって様々なスタイルがあります。

・分析、提案
事業展開や研究開発を進める上で、企業は様々な外部環境(他社分析など)を調査します。近年は「IPランドスケープ」など、事業戦略に知財情報を活用する重要性が言われています。知財部門として、そこに情報提供できるような分析を行い、事業部門や経営層に提案していくことが、新たな事業戦略の立案や発明の創発にも繋がっていきます。

・管理
権利の管理:所有している権利のポートフォリオや維持管理
費用・予算管理:出願・権利化を中心とした各種知財活動にかかる費用の管理
期限管理:特許庁への手続き期限等のスケジュール管理

・渉外、紛争
渉外:他社とライセンスや協業を行う際の対応
紛争:他社から警告書が届いたり、訴訟に発展した場合の対応

その他、情報提供や異議申立、無効審判請求といった、他社の知財権を無害化するための「クリアランス」が業務が発生することもあります。

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知財部を取り巻く人たちってどんな人?

具体的な業務内容によって向き合う相手は変わりますが、知財部の仕事は、部門内で解決するものではありません。
例えば、以下のような社内外の関係者と調整や交渉をしながら進めていきます。
・事業企画部門
・技術部門
・研究開発部門
・法務部門
・経営層
・特許事務所(社外の弁理士)国内
・特許事務所(海外):海外出願を行うときなど、現地代理人とのやり取りが発生
・特許庁

企業知財部で働くのに、弁理士資格はあった方がいい?

知的財産権といえば、士業である弁理士がいます。企業知財部では弁理士資格はあった方がよいのでしょうか。
知財部では知的財産権を取り扱うため、法の知識(知的財産法)は一定程度必要ですが、弁理士資格が必須ということはありません。一方で、弁理士資格を取得すると、企業に所属しながら弁理士同士の人脈を形成したり、弁理士会の活動に参加するなどして得られた社外での学びを社内に還元することができます。資格を取得することが人事評価の対象となる企業もあるので、そのような企業に所属する場合は、実務の傍ら資格取得に向けて学習を進めるのは有意義かもしれません。

企業知財部の業種・業界、組織規模による違いは?

一口に知財部と言っても、企業の業種・業界や、組織の規模によっても違いがあります。
電機・自動車メーカーは出願数が他の業界に比較して多かったり、医薬業界は特許1件あたりの価値が高い一方で出願件数が少ないといった特徴があります。その他の機械、化学、ITは、出願数については標準的です。業種に応じて担当する技術分野が変わってくるため、自分の興味が持てる技術分野は何かを基準に就職先の業界を選んでみてもよいかもしれません。
大企業の場合、組織内の人数も多く、役割分担がきちんとなされており、一つ一つの業務を経験して知財人材として成長していくことができますが、スタートアップの場合は少人数でどの業務も行うことが求められます。

企業知財部で仕事をするには?

実際に知財部に就職・転職したいと考える場合は、どのようなルートがあるのでしょうか。
・新卒で配属
・異動:研究開発部門から知財部門への異動は比較的多い
・転職:他企業の知財部や研究開発部門から、または特許事務所からというルートが一般的

この他、弁理士資格を取得して、一度特許事務所で実務経験を積んでから、企業知財部に転職するケースも見られます。企業の中途採用においては、実務経験を重視する傾向が強いですが、特許事務所の場合は未経験でも弁理士資格があれば採用の可能性が高まることがその背景です。

知財部員に求められるスキルや適性とは?

企業の知財部において求められるスキルや、向いている人の適性はどのようなものでしょうか。
関係者と調整して物事を進める業務が多いため、相手の考えを推しはかり、調整・交渉を行うコミュニケーション能力が求められます。また、企業戦略を理解し、事業・研究開発の課題感を把握した上で、知財の価値の見える化と権利活用の意義をどれだけ経営層や関係部門に訴求できるか、知財部門のプレゼンスを向上させるための努力を自発的に行えるかも重要なポイントになってくるでしょう。

独自のアイディアやブランドといった、その企業だからこそ生み出されるものに触れることが企業知財部の醍醐味の一つです。企業知財部への就職・転職を検討されている方は、職務内容だけではなく、ご自身の興味・関心が湧くコンセプトの企業をまずは見つけてみてはいかがでしょうか。


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