知財お仕事百景 #1 - プロフィック特許事務所・谷和紘先生(後編)

公開日: 2023-10-22

知財業界で活躍する実務家のキャリアを深掘りするインタビュー、「知財お仕事百景」。
記念すべき第1回は、株式会社知財塾の相談役を務めておられる、プロフィック特許事務所の谷和紘先生にお話をお伺いしました。インタビューの前編はこちらからご覧ください。
後編は、独立を決意されたときにお考えだったことや、谷先生の現在について。たくさんの失敗を経た谷先生だから伝えられる、強く温かいメッセージをどうぞ。


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事務所勤務から、独立へ

転機となった知財部員との出会いの後、1つ事務所を経由して、独立されています。
自分の将来のキャリアに悩んでいる時期でした。それで、別の事務所に移りました。移籍先の事務所には3年間所属して、僕が長くお付き合いしていたクライアントをメインに仕事をしていました。パートナーの肩書きはあったものの、現状のままずっとここで働くのはダメだなと思って、独立しようと決めました。

なぜダメだと思われたのですか?
結局、これまでの私のメインのクライアントは、自分でゼロから掴んできたクライアントじゃないんですよね。もちろんここに至るまで、いろいろな企業にお声がけいただいて、新規で大手のクライアントを獲得するチャンスはあったのですが、残念ながら受任には至りませんでした。
そういう意味で、ゼロから大手のクライアントを獲得できていないことは、僕の課題でした。一方で、事務所を移籍してもついてきてくださったクライアントもいました。そのクライアントには本当に感謝しています。でも、過去の事務所の所長がはるか昔に獲得したクライアントであり、自分がゼロから獲得してきたクライアントではない。ぬるい環境にいたんだな、それではあかんなと。
そこで、腹を括りました。ゼロから営業をやって独立しようと。これまでついてきてくれたクライアントについてきてもらうことを前提に独立するのは、自分にとっての独立じゃない。自分でちゃんとゼロから営業をして、僕に仕事を依頼してくれるクライアントを集めて、独立しようと。それと、クライアントが永続的に僕に仕事をくれるならいいけれども、そうとは限らないじゃないですか。営業してゼロからクライアントを獲得できる力がないと、この仕事を長く続けるのは難しいと思ったんです。

これまでとこれから

でもそれってどうしたらいいのって考えたときに、僕の知名度が低すぎることに気づきました。上向いて口を開けてても、誰も僕の口に飴ちゃんを放り込んではくれない。
そのとき、X(旧Twitter)のアカウントをちょっと前に作ったところでした。Xアカウント開設の当初の目的は、弁理士育成塾の知名度を向上させて、次年度の受講生を確保することだったので、今となっては非常にいやらしいのですが、「実務修習の講師」と「弁理士育成塾の講師」という肩書きをフル活用して情報発信をしました。ただ、Xを始めてひと月経ったくらいのタイミングで独立しようと思い直し、Xの活用方針に独立のための知名度向上を追加しました。
それから程なくして「知財実務情報Lab.の専門家チームに入りませんか」「セミナーやりませんか」「知財実務オンラインに出ませんか」と、いろいろお話が入ってきました。これらの活動のおかげでクライアントに声をかけてもらえる機会にも恵まれました。発信し続けた僕を見てくれていた人がいたんだなと嬉しく思います。
僕の次の課題は、しっかりと仕事をして、お付き合いくださっているクライアントの信頼をしっかりと獲得することです。


谷先生は無類のガンダム好きでもあるそう。事務所の入り口でお出迎えしてくれました。

肩書きのお話がありました。事務所でのお仕事のほか、弁理士会の実務修習講師と、弁理士育成塾の講師のお仕事もされています。
はい。実務修習と育成塾の講師は、いずれも前任のベテランの先生より引き継ぎました。育成塾はあるベテランの先生がずっとやっておられたんですけど、そろそろ講師を引退したいとのことで、昨年ご紹介いただきました。いろいろなところに出歩いてたくさんの先生と知り合った結果、声をかけていただいたので、事務所の外に出るのはすごく大事だと思ってます。

講師の仕事は楽しいです。実務って、経験則や感覚でやっている部分って結構多いと思っています。指導では、それを言葉として人に伝えないといけない。でも、実務能力が高い弁理士が、指導が上手いかっていうとそうじゃない場合もあると思っています。実務能力が優れていることと、経験則や感覚でやっていることを言語化して伝えることって別物だと考えていて、僕は、そういうことを言語化するのが好きというか得意なんだなと、やってみて感じています。
自分が苦労して辿った道を言語化する作業が、あとの世代の指導に使える。だから好きです。昔からメモを残したり、言語化したりしていたわけではなくて、真剣にやりだしたのは、やっぱり実務修習で講師を務めるようになったことが大きいです。

実務修習の講師のお仕事はいかがでしょうか。
最初は、弁理士会から支給されたテキストをそのまま使って授業をしてたんです。最初の2年3年ぐらいはその方法でやっていたのですが、授業中の空気がよどんでるんですよ。おもんないから(笑)。
そこで、講義資料を一から作ったら、授業中の空気が変わりました。実務修習には受講者のアンケートがあるのですが、僕の評価、結構高いんです。講義内容及び講義資料の評価で、「非常に良かった」の割合が平均値より30%ほど高くて、これはちょっとした自慢です(笑)。

教えるのが得意。人に教えることが苦手な方もいらっしゃいます。そこは谷先生の強みですよね。
それは、僕が1を聞いて10理解できない人間だからです。一段一段階段を登って、失敗して、階段から落ちたりしながら地道に進んできました。自分の経験した範囲であれば、人に対して、「こうすれば失敗する」「こうすれば上手くいく」を伝えられるのではと考えています。
今回の独立に関しても、まだうまく行ったといえるレベルではなく、スタートラインについた程度ですけれども、なんとかクライアントとお付き合いできるところまできた。これも過去の失敗から学んだことの成果だと思っています。どうやったら僕の方を向いてくれて僕に仕事を依頼してくれるんだろうって考えたら、知名度が重要だと。まずは、自分を知ってもらうのが大事。知名度と、接触機会と勇気。この3つを大事にしています。

読者へのメッセージ

この記事をご覧になる方は、未経験で特許事務所や特許・知財部門に転職したい方や、弁理士合格に向けて勉強して、知財業界に進みたいと思っていらっしゃる方です。そのような方に、谷先生のこれまでの22年のキャリアを振り返ってメッセージをいただけますか。

やっぱり試験の日に彼女と焼肉は駄目です(笑)。
冗談はさておき、僕は22年のうち20年ぐらいは特許事務所でキャリアを積んできた人間ですが、企業を辞めた理由の一つに、自分のやってる仕事・頑張りに対する報酬が見えにくい部分がありました。
頑張ったら頑張った分評価してくれ、それに応じた報酬をもらえる仕事というのが、特許事務所で働くやりがいであり、魅力だと思います。特許事務所で弁理士として活躍したい人は、実務を覚えてスキルを身に付けていただくのが良いと思います。
ただ本音を言うと、やっぱりこの職業の向き不向きははっきりしています。
僕の中で、この仕事をやるにあたっての重要な4つのファクターがあります。①技術知識、②文章力、③論理的思考力、④コミュニケーション能力。この4つが、全部がある一定のレベルにまで到達できないと、明細書ってちゃんとしたものにならないと思っているので、このファクターを努力して伸ばせる人は向いていると思います。ぜひ頑張っていただきたいです。
今回のインタビューでいろいろとしゃべらせていただきましたが、山あり谷あり、たくさんの失敗をして現在地にいます。成功続きでキラキラした弁理士人生も素晴らしいですが、僕のような失敗を経験した弁理士人生も参考になるかなと思い、お話しさせていただきました。

貴重なお話、どうもありがとうございました!

前編を読む)


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