セミナーレポート:スタートアップにおける知財キャリア ~現役担当者によるトークセッション~

公開日: 2024-09-19

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2024年9月3日、知財お仕事ナビの会員向けに「スタートアップにおける知財キャリア ~現役担当者によるトークセッション〜」が開催されました。このセミナーは株式会社知財塾とsuiP(スタートアップ知財コミュニティ)とのコラボ企画として行われました。
suiP(start-up intellectual Property)は”スタートアップに知財を浸透させる”というMissionを掲げる、スタートアップのインハウス知財責任者・担当者が集まるコミュニティです。
まずはsuiPの運営をされているグローバル・ブレイン株式会社の廣田氏から、スタートアップの全体感についてお話いただきました。

スタートアップの全体感

廣田:スタートアップの知財コミュニティsuiPを運営しており、知財塾と一緒に今回のイベントを企画させていただいております。
スタートアップについては明確な定義があるわけではないですが、一定大きなリスクを取った上で短中期的に急成長を目指す企業をスタートアップと呼びます。
この元となる資金はどうなってるか。日本のスタートアップに対する資金調達の推移は2013年が900億円ぐらい、2022年に9000億円を超え、この10年で10倍ぐらいに成長したと言われています。
資金調達の社数は10倍にはなっていないので、1社当たりの調達総額が大きくなっている。そのお金は人材採用に流れています。一昔前のベンチャー企業は待遇の悪いイメージもあったかもしれませんが、上場企業と同等の平均給与の企業も出てきているのが現状です。
知財業界でスタートアップに関与する人は、suiPのメンバー推移を見るとわかりやすいかと思います。2022年に立ち上げたコミュニティで、当初は5名ぐらいでしたが、人づてにコミュニティの存在が伝わったことでメンバーも増え、現在は50名以上になりました。このあたりからしてもスタートアップに関わる知財人材も増えてきているのかなと思っております。


廣田氏の説明の後、実際にスタートアップで知財職として働かれている4名が登壇。株式会社ZOZO 森田氏、株式会社エアロネクスト 澤井氏、エイターリンク株式会社 羽矢崎氏、株式会社カーボンフライ 柿田氏を迎え、知財塾・上池のファシリテートによるトークセッションが行われました。

現役担当者によるトークセッション

森田:株式会社ZOZOの森田です。これまでのキャリアではずっと特許をやってきましたが、ZOZOに入社してからは知財責任者として商標や著作権も見ています。
今8人の体制で商標担当者を絶賛募集中です。簡単に会社紹介させていただきますと、ファッションテックを経営戦略に掲げており、ファッションECを主力事業に、コーディネートアプリやファッションテックのプロダクトを展開しています。スタッフは平均年齢33歳。アメリカでもビジネスを広げており、海外知財も業務として関わってくる状況です。
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澤井:私は弁理士をしながら、2社の経営と事業・技術開発に携わっております。今日ご紹介するのは株式会社エアロネクストという、ドローン機体とドローンを使った物流システムを開発する会社です。主にIPのライセンスをやっておりまして、ドローンに関する技術について非常に多くの特許を出しています。今のところ出願が559件あり、登録件数は240件ぐらい(注:1出願1件カウント、ファミリ重複あり)。特許を非常に重視しており、これくらい我々知財をしっかり重視してやっていきますというところが他のスタートアップと全然違うところです。
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羽矢崎:エイターリンク株式会社の羽矢崎です。ワイヤレス給電で配線をなくす事業をやってる会社です。直近だと3月に量産製品を発表して、各種メディア等に取り上げていただいてます。また、IP BASE AWARDでアーリーステージながらも、グローバルで出願を含めて意欲的な取り組みを展開しているとして表彰をいただくに至ってます。現在80名ぐらいの会社ですが、知財チームが3名おり、知的財産も頑張っている会社です。
僕は2002年からNTTドコモで20年以上勤務し、創業間もない時期から知財戦略支援をやっていた先に転職しました。
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柿田:株式会社カーボンフライの柿田です。最近はITやAI関係のスタートアップが多い印象がありますが、カーボンフライはカーボンナノチューブの社会実装を目指しており、カーボンナノチューブの製造装置とアプリケーションを社会に提供しようとしている会社です。「スタートアップには興味があったけれど、素材や機械を扱ってるスタートアップがなかなか見つからない」と思っている方がいらっしゃいましたら、お話を聞きに来ていただけると嬉しいです。
設立が2022年、私が初めての知財専任ですが、2024年3月の入社後、2桁以上の特許出願が進んでいて、ボリュームを持って出願できる体制が整いつつあります。会社は50人規模ぐらい、知財法務室にメンバーが2人いますが、私が法務を兼任していて、もう1人のメンバーも他の業務を兼任している状態で人材が足りず、知財担当を募集しています。私が特許事務所でグループリーダーもやっていましたので、ある程度の教育環境も提供できると考えています。
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スタートアップ特有の業務

それでは、4社によるトークセッションに入っていきます。
初めのテーマ「スタートアップ特有の業務」。規模感やスピード感が大企業とは結構違いますので、その辺りお伺いしていければと思います。
澤井:スタートアップ特有の業務ってことは一般的な企業知財の業務が念頭にあると思うんですけど、そこからはみ出していく部分は非常に多いと思ってます。
私の場合だとエアロネクストでは知財だけではなく技術開発のマネジメントもやっているんですけども、経営幹部とかとは毎日話しますし、その中で今後どういう方向性で開発していくか、ビジネスをどう進んでいくかっていうところは常にミーティングや雑談でアップデートしていきます。
また、もう1つ別のスタートアップでは立ち上げにも携わっていましたが、そのときは資金調達・ファイナンスの実務を担当したり、大学や大企業との契約もカバーしたりなど、やらないければいけないところは全部やりますみたいな何でも屋さんを担当しています。

羽矢崎さんもいろんなことを幅広くご経験されていそうですが、スタートアップ特有の業務はどのようなものとお考えですか。
羽矢崎:廣田さんがスタートアップの定義で話されていましたが、急速な事業成長を目指しているので、時価総額を上げようとか、事業価値を作るためにやることのスピード感が速くて、大企業の新規事業開発と同じといえば同じだけれど、経営者や事業リーダー、技術者とのやり取りがすごく速い。仮説検証を繰り返して、価値創造にいかに貢献できるかの検討スピードが速い。そこが特有だなという気がします。

企業の意思決定の速さに対して、知財部門としても貢献できる部分は貢献していく動きを結構されているのですね。柿田さんはいかがでしょうか?
柿田:そうですね、別の観点からお話させていただくと、スタートアップにおいて実は知財って会社のかなり中心のハブ機能になり得る組織だなとは思っています。
ある程度規模が大きくなってくると、知財部門の業務は研究者と特許事務所と知財部門の間で業務が完結する部分が多いと思うんです。
けれども知財部門の強みは、研究部門の人と話が通じること。研究者全員の研究テーマを把握してるので、詳細はともかく研究の全体像を把握している。営業部門よりも研究部門の様々な状況を把握してる。そういう意味で、営業部門にとって研究を知るときのハブにもなれますし、研究部門内のハブ機能にもなれますし、経営者が他社と交流・取引の機会を検討するときも、「うちはこういうことまでができる」とか、逆に「これはまだ言っちゃいけない」とかそういうジャッジができます。知財部門がワークする限りにおいては会社のかなりの情報が集まってくるハブ的機能になる。そこはかなり面白いかなと考えております。

いろいろな情報が入ってくる特有の環境下でご活躍されてるんじゃないかなと思いました。
森田さん、ZOZOは今それなりの規模感になっていますが、小規模のときはこういう動きをしていたみたいなところがあればお伺いできますか。
森田:弊社も成長過程で専属がいないポジションは結構あると思っていて。今まさに柿田さんがおっしゃっていた通り、知財って全体を把握できることが一つの強みで、やっぱりハブ機能みたいなところとか、知財に関連するけれども、もう1個上位から知財を見ることを結構求められます。
例えば特許で言えば研究テーマや研究成果を管理したり、その研究成果を事業でどう使うかみたいなところのハブ的な役割を求められることもありますし、商標で言えばブランディングみたいなところが、その商標の上位概念というか、知財的に関連するけれどももうちょっと上の視点から見るべきところを会社から求められるので、そういったところを取り組んでいるという感じですかね。

確かに大企業は特許や商標などセクションが分かれているケースも多いですが、皆様横断的に知財全ての領域を見られていて、そこも大企業とは違うかなと聞いておりました。
澤井:業務の内容というより、仕事の進め方がめちゃめちゃ決断が早いし、昨日言ったことやめて違う方向に行くこともあったりするのが特殊ですね。よくPDCAサイクル細かいと言うんですけど、そういう中で知財というのがいかに情報のハブになっていくかっていうところですね。知財のポジションはスタートアップにおいては、マネジメント的な立場じゃなくてもそういった情報が集まりやすく、面白さがあるんじゃないかなとは思います。


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スタートアップに向いている人材

「スタートアップ知財に向いている人材」に移ります。羽矢崎さんからお願いできますか?
羽矢崎:これは、スタートアップのステージによるんじゃないかと思っていて。僕は創業メンバーと含めて三、四人の頃から知財戦略をその副業でコンサルする立場から入っていって、知財部長的になりました。創業当初にどう知財を取るべきか、どのように設計するかを考えて決めるフェーズなのか、新しく入ってきたメンバーに専門領域を任せる、数が増えたからマネジメントするというフェーズなのか、ステージによってスタートアップといえども、やることは違う気がしています。
一方でその知財人材としてそのベースとしてある特定の専門領域・強みがあった上で、それを生かして、そのステージの側面に合った経営者や技術リーダーが望んでる何かを果たす役割を担う必要があって、その役割は変動するので、柔軟に対応できる必要がある。
マラソンみたいな距離をダッシュしてあっち行ったりこっち行ったりするから、普通だとちょっと心が折れるんですよね。なので、楽観的にいうと、自分の目的を見失わない人。でも一定のスキルを持っている人でしょうか。

柿田:弊社が創業2年・50人規模である前提でお話させていただきますと、未経験の方を育てる余裕はあまりないので、出願でも調査でも、「知財のこの分野だったらある程度できる」といった方に来ていただきたい気持ちもあるんですけれども、やったことない分野があっても構わないですし、実際動いてもしできなかったらそれはいくらでもカバーすればいい話なので。
向いている人材という意味でいうと、未経験の仕事をアサインされたときに、「これやったことないな」って言いながらも、わくわくしながら動いてくれる人ですかね。


自走するためのスキルは必要ですが、やったことのないことが巻き起こる中でできないならできないなりに頑張っていくマインドも必要そうですね。森田さん、いかがですか。
森田:そうですね、スタートアップだからこそサービス自体が単一だったり製品のバリエーションも少なかったりすると思うので、自社の製品やサービスに愛をもって接することができることが必要じゃないかなと思ってます。
僕は最初に入った会社が魚群探知機や船のレーダーを作るメーカーだったのですが、自分が船に乗るわけじゃないし、特許は取れるけれど何のために取ってるかよくわからなかった。それで営業に新しい魚群探知機の売上はどうかと聞くと、「前の設定をそのまま維持してくれたら買ってやる」っていうお客さんが多いという。つまり漁師さんたちはみんな自分の経験を信じてやりたいから新技術なんかいらなくて、前のものをそのまま新しくしたいニーズがあることを聞いて、結構ショックだったんです。
そういうことを知らずに必死に新技術の特許取って、何のためにやってるんだろうと思って。そこからは自分が好きになれる、ユーザーになれるサービスや製品の分野で仕事をしたいと思ってます。

スタートアップってサービスそのものが会社になってるからこそ、そこへの愛がないとなかなか本気で知財に取り組むっていうのも難しいですよね。
森田:愛があると、「今の製品はもっとこうした方がいい」というアイディアが知財部員から出て実際に特許になるケースもあるでしょうし、愛がないとなかなかそういうアイディアも出てこないだろうという感じがしますね。

澤井:知財領域の話と非知財領域の話という2つの観点に分けてみます。
知財領域の話をすると、専門性があったり、引き出しの中身が充実しているってことは個人的には重要じゃないと思ってて。ただその引き出しがどこにあるか、お題が降ってきたときに対応できるようにしておく、すぐに答えが出なくても自分なりの答えを他の人の手も借りながら、自分で責任を持って実行することが重要かな。実行しないと進まないので。
非知財領域の話だと、わからなくてもわからないなりにとりあえずやってみるマインドセットが重要です。単純に他にやる人がいないから、比較的早い段階でのスタートアップは、自分のことだと思って責任持ってやれるかと、抽象的ですけどそんな感じのイメージを持ってます。

採用したい人材

最後は「採用したい人材」。今までのお話の中で結構出たかと思いますが、最後はズバリ自社で採用したい人、自社に向いている人という観点でお話しいただければ。
澤井:ちゃんとやり切るところ。自分でちゃんとお題を持ってきて、どうしたらいいかっていう仮説を立てて検証して実行するというところをちゃんと自分でマネジメントするというところがマスト。
自分もやってて大事だと思ったのは、「話しかけやすい人」ですよね。
コミュニケーションがうまくいかないと、スタートアップの組織は割とすぐに崩壊しがちです。スタートアップの特性として知財がハブになると言ってたんですけど、ハブとして機能するってことはそこに情報が集約されやすい状態じゃないと駄目で。「あの人怖い」「イライラしてんな」とかそういう評価だと、情報の流れはうまくいかなくなってしまう。逆にそういうところを回せる人ってありがたいと思ってます。

柿田:性格的な話とか精神的な話は本当にその通りなので、端的にカーボンフライに今必要な人材という意味で申し上げますと、装置や素材に関する知財をやりたい方が来ていただけるとありがたいです。BtoBでコンシューマー向けの商品ではないので、一番重要度が高いのが特許。それからその周辺のライセンス契約や共同開発契約などの契約周りにも業務を広げてみたい方がいらっしゃったら、後で話をさせていただければ光栄です。

羽矢崎:先ほど製品を愛せるかどうかってありましたけど、愛してる製品がツンデレだったりするんですよね。愛したプロダクトの形を変えなきゃいけないとか、計画を変えなきゃいけない。それをグローバルで製品展開していくと、いろんなことが起きるから、僕が仮説を解いてどこの山に登ろうかっていうのを本気で当てにいこうというメンバーが初期はやってるんすけど、よりちゃんとしたメーカーとして量産体制を作る段階に至ると、その具体化・実行するロジスティクスを固めていかないといけない。
なので、今当社は、僕を含めてマネジメントしていただけるメンバーに来てほしい。立ち上げた組織をより大きくするためのマネージをご一緒いただけるメンバーに参画いただきたいというのが今の採用募集状況です。

森田:商標メンバーを募集していますが、商標のスキルをそこまで重視はしてないんです。何を重視してるかっていうと、やっぱり柔軟性かなと思っていて。
採用活動を続けているといろいろな方のお話を聞く機会があります。経験を積んでいれば自信があるのは当然ですが、その経験をそのまま他の会社で活用できるものでもないと思っています。弊社も結構独特な文化がありますし、その中で自分の経験を生かしつつZOZOにとってはこういう知財活動が必要だなとか、ZOZOではこういうコミュニケーションをとって事業部の人と円滑に進めた方がいいんだなみたいなことを想像し、柔軟に対応できる人がいいなと思ってます。


スタートアップに求められるスピード感や柔軟性、必要なマインドセットやプロダクトへの愛など、様々なお話を聞くことができました。この後参加者と登壇者はブレイクアウトルームで交流・歓談し、セミナーは閉会しました。
ご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。


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