特許事務所における弁理士資格取得支援制度の実態レポート
公開日: 2025-04-06

知財のスペシャリストであり、知財業務の根幹を担う弁理士。
知財業界に身を置く方や知財業界へ転職を希望する方の中には、弁理士になることを目指して試験勉強に奮闘している方も数多くいらっしゃるのではないでしょうか。
知財職に従事しつつ弁理士を目指すことは、実務を通して法令をより深く理解できたり、最前線で活躍する弁理士に直接アドバイスがもらえたりとさまざまなメリットがありますが、日々追われる業務と試験勉強を両立することは至難の業です。
特許事務所サイドとしても、必要不可欠な存在である弁理士の登録者数が年々減少傾向にあり、新たな人材確保は業界全体の課題となっています。
そのような状況を受けて、近年知財業界では、"弁理士を採用する"のではなく"弁理士を志す人材を育成する"という人事戦略が注目されています。
そこで、今回株式会社知財塾では、特許事務所による従業員への弁理士資格取得支援の有無やその実態について探るべく、弊所が提供するサービス「知財塾」「知財お仕事ナビ」「PatentJob Agent」の利用実績がある特許事務所に対しアンケートを実施いたしました。
弁理士資格取得を見据えて知財業界で転職を希望する方は、ぜひ参考になさってください。
注)本レポート内で使用しているグラフ及び表の構成比は、個別情報の漏洩防止の観点から、実数の推測を防ぐことを目的に小数点以下を四捨五入しております。そのため、合計が100%にならない場合がございます。
\最新の求人情報をチェック!/
■ 集計概要
調査期間:2024年1月29日~2025年2月14日
調査対象:株式会社知財塾提供サービス「知財塾」「知財お仕事ナビ」「PatentJob Agent」の利用実績がある特許事務所
■ 特許事務所の弁理士資格取得支援制度
① 弁理士資格取得に関する費用の補助金制度
【グラフ1】本サービスの利用実績がある特許事務所における弁理士資格取得を目指す従業員への補助金制度の有無
株式会社知財塾が提供するサービス「知財塾」「知財お仕事ナビ」「PatentJob Agent」(以下、「本サービス」とします)を利用した実績のある特許事務所に対し、弁理士資格取得を目指す従業員への補助金制度の有無を調査したところ、「あり」と回答した特許事務所は38%、「なし」と回答した特許事務所は62%という結果となりました。
なお、「あり」と回答した特許事務所が設けている補助金の内容としては、「予備校費用や教材費用の援助(上限あり)」、「弁理士試験受験費用(回数制限あり)」「弁理士試験会場までの交通費・宿泊費・手当」などがありました。
② 弁理士試験のための学習サポート
【グラフ2】本サービスの利用実績がある特許事務所における弁理士資格取得を目指す従業員のための学習サポートの有無
費用以外の支援として、特許事務所による弁理士資格取得を目指す従業員のための学習サポートの有無について調査したところ、29%の特許事務所が「学習サポートを実施している」と回答しました。
学習サポートの内容としては、「弁理士による勉強会の開催」や「チャット形式での弁理士試験に関する質疑応答」、「口述試験前のロールプレイング実施」などの実践的なものや、「事務所の一室を勉強スペースとして提供」といった施設面でのサポートなどが挙げられました。
また、「OJT時に資格試験に出題される事項について十分な時間を割き、法令や評価基準等を本人に確認させる機会を設ける」といった、日々の業務内に試験対策を取り入れている特許事務所もありました。
③ 弁理士試験の勉強のための労働環境サポート
【グラフ3】本サービスの利用実績がある特許事務所における弁理士資格取得を目指す従業員への働環境面でのサポートの有無
次に、特許事務所による弁理士資格取得を目指す従業員のための労働環境面でのサポートについて調べたところ、62%の特許事務所が「労働環境面でのサポートを行っている」と回答し、その多くが「受験生の残業はない」あるいは「残業を制限する」といった残業に関するサポート内容でした。
また、「受験勉強時間を確保するために本人の状況を把握しながら担当業務量を調整する」と回答する特許事務所も散見されました。
④ 弁理士試験のための休暇取得制度
【グラフ4】本サービスの利用実績がある特許事務所における弁理士資格取得を目指す従業員の弁理士試験のための休暇取得制度の有無
【弁理士試験前の休暇取得制度の例】士試験前の休暇取得制度の例弁理士試験前の休暇取得制度の例
- 試験前の任意のタイミングで3日間
- 本人との状況を把握しながら調整
- 合計30日を短答試験前及び論文試験前に適宜本人が割り振って取得
- 論文試験前に2~4週間(有給・無給を併せた連続休暇)
- 論文試験前に3日間、口述試験前に1日間の特別休暇(有給)
- 二次試験直前10日間・三次試験前日の業務免除
- 口述試験直前に特別有給休暇を3日間
- 論文試験前一週間
続いて、弁理士試験前の休暇取得制度の有無について調査したところ、62%の特許事務所が休暇取得制度を設けていることが判明しました。
休暇の期間は、「試験前の任意のタイミングで3日間」や「論文試験前に2~4週間(有給・無給を併せた連続休暇)」、「合計30日を短答試験前及び論文試験前に適宜本人が割り振って取得」などさまざまな回答があり、特許事務所ごとに独自の制度を設定していることが分かりました。
■ 弁理士試験合格後の支援
① 弁理士試験合格後のお祝い金制度
【グラフ5】本サービスの利用実績がある特許事務所における弁理士試験に合格した従業員へのお祝い金制度の有無
本サービスを利用した実績のある特許事務所に対し、弁理士資格試験に合格した従業向けの支援制度としてお祝い金制度を設けているか調査したところ、「あり」と回答した特許事務所は19%、「なし」と回答した特許事務所は81%という結果となりました。
また、「あり」と回答した特許事務所が支給しているお祝い金の金額例としては、「5万円」や「30万円」などが挙げられました。
② 弁理士試験合格後の実務修習費用・弁理士登録費用支援制度
【グラフ6】本サービスの利用実績がある特許事務所における弁理士試験に合格した従業員の実務修習費用の支援制度の有無
【グラフ7】本サービスの利用実績がある特許事務所における弁理士試験に合格した従業員の弁理士登録費用の負担者内訳
次に、弁理士試験合格後の実務研修費用と弁理士登録費用の支援制度の有無を調査したところ、「実務修習費用支援制度あり」と回答した特許事務所は71%で、そのほとんどが「全額負担している」と回答しました。
また、全額負担する特許事務所の中には、「取り決めの期間在籍したら」という要件を付加している事務所もありました。
弁理士登録費用については、全体の86%が特許事務所側で負担しているということが分かりました。
③ 弁理士資格取得後の昇給制度
【グラフ8】本サービスの利用実績がある特許事務所における弁理士資格を取得した従業員への昇給制度の有無
続いて、弁理士資格取得後に昇給する制度の有無を調査したところ、「あり」と回答した特許事務所は67%、「なし」と回答した特許事務所は33%という結果となりました。
昇給額としては、「個人の状況に応じる」や「人事制度に基づく」とする特許事務所が多数を占める中、いくつかの特許事務所では「昇給額の最低金額を定め、そこから能力に応じて加算する」としているところも見られました。
また、「制度としては設けていないものの、弁理士資格取得に対するモチベーションアップを目的に、資格取得後に50万円以上の昇給と、実績次第で年度末に決算賞与を支給している」という回答もありました。
④ 弁理士資格取得後の働き方の変更
【表1】本サービスの利用実績がある特許事務所における弁理士資格を取得した従業員の働き方の変更について
回答1:働き方の変更あり(裁量労働制へ移行)
回答2:働き方の変更あり(リモート勤務が可能)
回答3:働き方の変更なし(資格の有無を問わず柔軟に対応)
回答4:働き方の変更なし
回答5:その他(個別に応相談)
弁理士資格取得後の従業員の働き方に変更があるか調査したところ、「変更あり」と回答した特許事務所は24%で、その内訳は「裁量労働制へ移行」が19%、「リモート勤務が可能」が5%でした。
また、上記設問以外の回答として、「事務所費用負担で海外研修に参加可能(1ヵ月程度)」としている特許事務所もありました。
■ 弁理士資格取得に関する支援の成果
【グラフ9】本サービスの利用実績がある特許事務所における直近3年間で弁理士資格を取得した従業員数
【表2】本サービスの利用実績がある特許事務所における各弁理士資格取得支援と弁理士資格を取得した従業員数の内訳
支援1:弁理士資格取得に関する費用支援
支援2:弁理士試験に向けた学習サポート
支援3:弁理士試験の勉強のための労働環境サポート
支援4:弁理士試験合格後のお祝い金制度
支援5:弁理士試験合格後の実務修習費用支援
支援6:弁理士試験合格後の弁理士登録費用支援
支援7:弁理士資格取得後の昇給
本サービスを利用した実績のある特許事務所に対し、直近3年以内に弁理士試験に合格した従業員数を調査したところ、1名以上合格者を輩出した特許事務所は43%にのぼることが判明しました。
また、「弁理士資格取得に関する費用支援」「弁理士試験に向けた学習サポート」「弁理士試験の勉強のための労働環境サポート」「弁理士試験合格後のお祝い金制度」「弁理士試験合格後の実務修習費用支援」「弁理士試験合格後の弁理士登録料費用支援」「弁理士資格取得後の昇給」の項目のいずれかを実施している特許事務所に限定して合格者数の内訳を算出したところ、1名以上合格者を輩出した特許事務所の平均は55%となりました。
一方で、対象とした7項目のいずれも実施していない特許事務所の合格者数の内訳を算出したところ、すべての特許事務所が「0名」であることがわかりした。
このことから、1名以上の弁理士試験合格者を輩出している特許事務所は、7項目のうちのいずれかの支援を実施しているということが明らかとなりました。
なお、「5名」と回答した特許事務所はいずれも、対象とした7項目の支援のうち複数の支援を実施していました。
■ まとめ
弁理士資格を目指す従業員に対し、半数以上の特許事務所が残業の調整や試験のための休暇制度といった労働環境面でのサポートを行っており、弁理士資格合格後にかかる実務修習費用や弁理士登録費用に至っては、大半の特許事務所が事務所負担としていることが判明しました。
一方で、補助金やお祝い金といった金銭面での支援や学習サポートを行っている特許事務所は2割から3割程度にとどまり、弁理士を目指す特許事務所勤務希望者にとってこれらの支援を実施する特許事務所は貴重な存在であると言えます。
また、弁理士になる可能性のある人材の採用に力を入れたい特許事務所にとっては、金銭面での支援や学習サポートの実施は、他所との差別化を図るための長所になりえると推察されます。
弁理士資格取得も見据えたキャリアアップを目的に知財業界へ転職する場合、弁理士資格取得に関する各種支援を実施している特許事務所に入所できれば、大きなアドバンテージとなります。
しかし、弁理士資格取得に関する支援情報を一般的な求人票から知ることは困難なため、転職活動時には知財業界に精通した転職サービスを利用することが不可欠です。
株式会社知財塾が運営する「知財お仕事ナビ」は、知財業界専門の求人案件の取り扱いに加え、知財業界を熟知したスタッフが転職活動をサポートしております。
知財業界に身をおきつつ弁理士を目指したい方は、「知財お仕事ナビ」を通じてぜひお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
知財塾ではお気軽に無料キャリア相談をお申込みいただけます。