企業知財部の商標実務とは?—現役マネージャーが語る業務のリアルとキャリア戦略

公開日: 2025-04-07

企業の知財部でのキャリアを考える方にとって、「商標業務」はどのような役割を果たすのか、どのようなスキルが求められるのかは重要なポイントです。今回は、メーカーの知財部で10年以上の経験を持ち、現在マネージャー(課長相当職)として活躍する方に、企業知財部の商標業務の実態やキャリアの展望についてお話を伺いました。

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企業知財部での商標業務の実態

企業知財部では、特許や商標、著作権などの知的財産を管理し、事業を知財の側面から支える役割を担っています。その中でも「商標業務」は、ブランド戦略と密接に関わる重要な業務の一つです。

企業知財部の商標業務の主な内容

企業知財部における商標業務は、大きく分けて以下の3つの領域があります。

・商標権の取得・管理(約6~7割)

国内外の商標調査

商標出願・中間対応

商標権の更新・管理

・侵害対策(約2~3割)

商標権侵害に対する警告・訴訟対応

偽造品や類似ブランドの監視・対策

・ライセンス交渉(約2割)

知財系ライセンサーとの契約交渉

既存契約の管理・更新


企業によっては、これらの業務を細分化し、担当者ごとに分けることもありますが、多くの企業では知財部の規模に応じて複数の業務を兼任するケースが一般的です。

商標業務の具体的な流れ

① 商標の権利化プロセス

商標の権利化業務は、事業部門からの「新しい商品・サービスを出したい」という相談から始まります。知財部は、その商品やサービスに適した商標の候補を選定し、既存の登録商標と競合しないかを調査します。
出願に向けては、指定商品・役務(商標の適用範囲)を検討し、事業部に提案します。拒絶理由通知が来た場合には、克服の可能性を判断し、反論方法を検討します。登録後の商標も適切に管理し、更新のタイミングで事業部と連携することが求められます。

② 侵害対策

商標の侵害対策には、以下の2つのアプローチがあります。

  • 事業部門からの相談に対応するケース
  • 「競合他社が自社の商標と類似する名称を使っている」「偽造品が出回っている」といった相談を受け、対応方針を検討します。
  • 知財部が自主的にパトロールを行うケース
  • 重要なブランドや商品については、定期的に監視を行い、商標権侵害がないかチェックします。特に、偽造品の被害が多いアパレル業界では、このようなルーチン業務が定着している企業も多いです。

③ ライセンス交渉

ライセンス交渉は、事業部門の意向に基づいて行われることが多いです。例えば、自社ブランドを他社に使用許可する場合や、他社ブランドを使用したい場合に、ライセンス契約を締結します。過去に締結した契約については、知財部が管理し、更新のタイミングで事業部と相談することが一般的です。

大企業と中小企業における知財業務の違い

企業の規模によって、知財部の役割や業務の進め方には違いがあります。

大企業の知財部で働くメリット

リソースが豊富 → 休暇・福利厚生が充実し、業務の調整がしやすい
海外案件に携われる機会が多い(グローバル企業の場合)
案件数が多く、経験を積みやすい(特にBtoC企業)
研修や社外活動の機会が豊富

大企業のデメリット・課題

分業制が進み、担当範囲が狭くなりがち
意思決定に時間がかかる(社内調整が多い)
事務所への外注が多く、実務経験が限られることも
一方で、中小企業では知財部の人員が少ないため、一人で国内外の商標業務をすべて担当することもあります。特に、知財業務の多くを事務所に依存する企業も存在しており、企業ごとのスタンスを事前に確認しておくことが重要です。

知財キャリアを築くために必要なスキル

弁理士資格は必須ではないが、あれば有利

弁理士資格がなくても商標業務は十分にこなせますが、契約交渉や専門性を活かした業務に携わる上では有利になる場面も多いです。

キャリアアップに必要なスキル

商標の実務スキル(特に権利化)
事業部とのコミュニケーション能力(ニーズを正しく理解し、適切に提案する)
マネジメントスキル(主任・係長以上では必須)
契約や特許の知識(課長以上の役職を目指すなら必要)

これから企業知財部を目指す人へ

知財業界を目指すなら、事前に準備しておくべきことがあります。

最低限の知識を身につける

・知的財産管理技能検定(最低3級、できれば2級)を取得
・業界研究をし、J-PlatPatやWIPOなどのデータベースで商標出願状況を確認

未経験からのアプローチ

・同じ業界の別職種(開発・営業など)から知財職へキャリアチェンジするのも有効

知財業務は、売上の数字に追われることが少なく、論理的な議論や交渉を通じて事業を支えるやりがいのある仕事です。特に商標業務はブランド戦略と密接に関わるため、企業の知財戦略を担う重要なポジションとして活躍できます。
知財キャリアを目指す方は、ぜひ積極的に情報収集をして準備を進めてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました!
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