知財お仕事百景 #7 - 中村合同特許法律事務所・高石秀樹先生
公開日: 2025-06-19

知財業界で活躍する実務家のキャリアを深掘りするインタビュー、「知財お仕事百景」。
第7回は、中村合同特許法律事務所・高石秀樹先生にお話を伺いました。
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特許裁判を志し、弁護士・弁理士のダブルライセンサーへ
本日はどうぞよろしくお願いいたします。 まずは、弁護士・弁理士になるまでのキャリアをお伺いします。
高石秀樹と申します。私は、東工大の大学・大学院と理系で研究開発の道を進んでいましたが、特許裁判を志し、司法試験を受験して、弁護士になりました。
学生時代の研究は面白かったですが、就職して会社から与えられたテーマを研究するよりも、裁判で特許権について戦う特許弁護士の仕事はとても魅力的だと思い、司法試験の勉強を始めました。父親が弁理士で特許裁判に関与していたため、家庭でも特許裁判が話題にのぼっており、身近だったこともあります。司法試験は、2回目の受験で合格しました。
2002年に弁護士登録、その後2005年に弁理士登録もされます。
弁理士資格だけを取る選択肢はなかったのでしょうか。
東工大では、周りに弁理士を目指す人もいましたが、自分は裁判をやりたかったので、弁護士になろうと思いました。特許を扱う弁護士は、多くの場合、弁理士登録もします。商標、著作権、農水... どのような領域であれ、知的財産権を専門性や強みにして仕事をする弁護士にとっては、ダブルライセンスの意味があると思います。
現在の活動とその戦略
それでは、現在のご活動状況をお伺いします。
弁護士としてのお仕事と弁理士としてのお仕事、それぞれどのようなものでしょうか。
9割は弁護士の仕事です。特許裁判が半分、残りは、特許警告状、契約、顧問業務などです。特許出願戦略の策定や無効審判など、弁理士登録していることで声がかかることもありますが、それらは全体の仕事の1割程度です。クライアントからお仕事をいただくことのみならず、所属団体や会派、特許庁などからお声がけいただくこともあります。
個人HPやX、Facebook、Amebaブログ、YouTube「弁護士・高石秀樹の特許チャンネル」など、精力的にネット上での情報発信も行われています。始めたきっかけは。
自分のこれまでの活動履歴や情報をどこかにまとめておきたい気持ちがありました。事務所のホームページもありますが、定年後も考えると、最終的には自分個人のページに残していきたいと思いました。
個人HPもYouTubeも、世の中ではもうみんながやるようになった頃、弁護士や弁理士の業界ではようやく誰かが始めるぐらいという遅さなので、私も世の中では早くないけれど、知財業界ではまだみんなやっていない頃に始めたという感じです。 動画編集など時間のかかる作業もありますが、コロナ禍で生まれた時間を有意義に使って作りました。
特許チャンネルをはじめとするSNSの活用について、実務にプラスに働いていると思うことがあれば教えていただきたいです。
全ては相乗効果ですが、直接SNSからの依頼もありますし、SNSで名前を知った他所の弁理士から依頼されることもあります。あとは、情報発信するために内容をまとめることによって、自分の頭に整理されて残り、勉強にもなる。実務にも役立つ。これは良い循環なのではないかと思っています。
「論点別 特許裁判例事典」第4版の出版
今回、著書「論点別 特許裁判例事典」の第4版を株式会社知財塾から出版されました。
この本を書くに至ったきっかけは。
2010年に、アメリカに留学しDukeロースクールで教育を受けました。アメリカは判例主義。とにかく似た事案の裁判例を見つけてきて、そこと同じ結論であるべきだという論理で行けというのがお作法です。
日本はそうではなく、各事案の事案毎に主張・立証するという建前です。しかし、実際には過去の同じような事案と同じ判決になっていることを認識しました。とすると、「裁判例をまとめる本」というアメリカでは当たり前のことを、日本でやれば必ず意味があるだろうと考え、まず特許からやろうと思いました。
今でも商標・著作権・不競法の裁判例事典はないので、私は「商標裁判例事典とか出せばいいのに」と思っていろんな人に言っているのですが、誰もやらないですね(笑)。
他の方が同じようなアプローチで本を出されないのはなぜでしょうか。
面倒だからだと思います。執筆にはそれなりに時間はかかるので、若いうちから始めて、5年ぐらい書き溜めてから出版するぐらいのつもりでいれば、5年後には出版できると思います。SNSも同じ。毎日投稿して3年やれば1000投稿でき、業界ではそれなりに名が知れるようになるはずなのに、やらない。 将来のマーケティングメリットを意識してる若い人がそんなにいないのではないかとは思います。
会社で知財部長になったり、事務所でパートナーになったり、独立したり、弁護士・弁理士のキャリアにはいろんなパターンがあります。こうなりたいというロールモデルを見つけて、そうなるには、いつ何をやると何年後にどうなるってことを想定するとそれに近いように進むと思うんですよね。
そうじゃないと、目の前の仕事に忙殺されているうちに時間が経ってしまいます。
先生にはロールモデルとなる先輩はいらっしゃいましたか。
留学前は留学に行った先輩がモデルケースで、帰ってきてからはパートナーの先生がモデルでした。経験年数に応じたフェーズがあって、その時々のタイミングによってロールモデルを見つけていくことが大切ですね。
僕にも現在のロールモデルがいます。たくさん仕事して、勉強して、情報発信した結果、様々なところでお声がかかっている先輩がいます。もっとも、知財業界誌の執筆者を見ても、同じような人がいつも書いていて、若い人はあまり書いてない気がするんです。 やってみて功を奏するのは多分5年10年後なので、目の前にある仕事で手一杯の人が先々に意識を向けるのは難しいのかもしれませんね。
キャリアの考え方は人それぞれですが、ロールモデルの人と同じ道をいけば、10年後には同じように成功できる可能性が高まると思います。
「塵も積もれば」で、努力を数値化して、これだけやったらこれだけの結果が出ると伝えると、後の世代に対してももう少し納得感があるのかもしれませんね。
そうですね。あとは、積もる塵であるもののみをやるってことですよね。
SNSや雑誌での情報発信は、必ずGoogle検索に引っかかるような媒体でやる、そこで数を稼いでいくとか。積もる塵っていうことが重要で、そこは戦略が必要ですね。 パテント誌への投稿は、掲載されやすいわりに、Google検索に引っかかるので効率的です。
私は40代までは年2本投稿を自分に課して、年末年始とお盆を執筆に当てていました。
改訂のポイントとモチベーション、AIとの向き合い
「特許裁判例事典」、第3版までは別の出版社で出されていましたが、今回知財塾から出すことになりました。しかも紙ではなくて電子でということですが、経緯は。
これまでの出版社が解散してしまい、改訂版を出すにあたって新しい出版社で出すことは必然でした。この時代だから電子書籍もありだなと思っていて、いろいろな人と話をしている中で、知財塾から出さないかという話になりました。ご縁とタイミングなんだと思います。
今回第4版を出されるとのことですが、改訂にあたってのポイント、特に読者に読んでいただきたい部分や、コンセプトを教えてください。
第3版から追記したところには黄色のマーカーを付けました。電子データなので検索可能ですし、(契約の範囲内で)生成AIの学習用にも使っていただけます。
実際に書籍の文言を引っ張ってきてプロンプトとして入力するなどの利用方法が認められるということですよね。そんな本、聞いたことないです。
今ChatGPTのO3ですら、出てくる判決は嘘ばっかりなんです。 だから、書籍データを読み込ませて、この中から適切な判決を抽出してほしいというプロンプトで使ってください。ハルシネーションを防ぐということで、良いのではないかとは思います。
改訂のモチベーションはどんなところにありますか。
メインは自分の仕事に使うこと。お客さんが知ってる判例を自分が知らなかったらまずいので。そういう意味では最新判例は常に勉強してまとめなければいけないのですが、それを原稿にまとめていく作業を日々していて結果的には改訂されていく。仕事をしている限りは自然と改訂されるという関係にはあると思います。最初はブランディングでしたが、ここまでくると、社会的義務という気持ちもあります。
ご自身の知識のアップデートのために書き留め、それが結果として書籍のアップデートに繋がるという話なんですね。実務でも生成AIを活用されていますか?
はい。生成AIを一番よく使うのは裁判における証拠探しです。探したいものが決まっていて、何年何月何日以前にそれがあったかどうかが問題であるということはわかっているので。
生成AIを使って探すと、出力された結果が100%信用はできないものの、一定程度当たりはつく。 それをもとに調べていくことが多いですね。あとは、ある論点について調べたいときには、手を変え品を変えプロンプトを入れたりして活用しています。
自己研鑽とロールモデルのススメ
知財業界での転職・就職を目指す方へのメッセージをお願いします。
動きが速い業界なので、勉強し続けないとすぐに知識は陳腐化します。その意味で、知識の蓄積とか人脈だけでは仕事の能力は決まらないので、研鑽を積むことで、同僚や先輩と対等に渡り合える。生涯学習という人生になる。
これから弁理士試験を受ける人は、とにかく何でもいいから受かること。その後の勉強は受かってからでいいから、受かるための勉強を集中してやることが絶対だと思います。
受かった後は新人になるんですけど、なりたいモデルを描くこと。5年先輩のモデルや10年先輩のモデルぐらいを見て、その先輩が過去に何年目に何をやったのかを聞くってことだと思うんです。自分が若い頃と今では強制される労働の強度が全然違うので、自分が若い頃にやってた量を今の若い人はやらされてはいないとは思うんですよね。
先輩と同じだけ成功したければ先輩と同じだけの時間を研鑽に使う。先輩が何をしてきたかは本人に直接聞けば、喜んで教えてくれますよ。
今の若い人が有利なのは、同世代の人数が少ないのと、無理に頑張らされてないライバル・同級生が多いから、頑張るだけでもう上位1割です。だから、知財塾に来てるような人は、めちゃくちゃ有利ですよね。頑張ってもらいたいと思います。
ありがとうございました!
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