知財お仕事百景 #5 - 弁理士法人IPX・鷲見浩樹先生
公開日: 2025-03-16

知財業界で活躍する実務家のキャリアを深掘りするインタビュー、「知財お仕事百景」。
第5回は、弁理士法人IPX・鷲見浩樹先生にお話を伺いました。
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知財を知らない学生、知財業界へ
本日はどうぞよろしくお願いいたします。
どうぞ、よろしくお願いいたします。私は愛知県みよし市という、一時期はトヨタのベッドタウンとも言われていたところで生まれました。
その後、一浪して東大の理科一類に入りました。物理と数学が好きで、最初は数学科に行こうとしたんですけれど、大学の数学が私には抽象的で難しすぎて挫折しました。一方で物理は目の前の出来事や物との関連性がわかりやすくて楽しく、比較的成績も良かったので、自分には物理学のほうが適性がありそうだと思いました。それを機に、物理系の学部を探して物理工学科というところに進学し、主に物性物理学について学びました。選択肢はいくつかありましたが、就職のことを考えるとメーカーに近い工学のほうがよいと考えました。
その後、新領域創成科学研究科物質系専攻の修士課程、博士課程へ進学。大学院では、構造の対称性に着目した新奇物性を有する新物質の探索に従事しました。当時やっていた研究はとても楽しくてやりがいがありましたが、博士課程在籍中に体調を崩して成果を出せず、志半ばで満期退学してしまいました。
大学院を満期退学して、特許事務所へ。なぜ特許事務所に行こうと思われたのでしょう。
最初は特に考えず、研究開発職を目指してメーカーの就活もしたんですけど、就活を進めるうちに違和感をおぼえるところがありました。研究開発職だと地方の工場勤務なども想定されますが、自分の生きる場所を選べないことにモヤっとしたりとか。研究室でも、優秀な友人たちが寝食を惜しまず嬉々として研究しているのを見て、それほど自分に研究への適性がないというのも感じており、そもそも私は研究開発をやりたいんだろうかっていうところから疑問に思うこともありました。でも、理系の研究をしてきたのであれば花形である研究開発職を目指すべきだという執着もあり、研究開発職で応募するということがしばしばありました。そんなモヤモヤを企業側も感じたのか、メーカーは最終面接で不採用となることもありました。
特許事務所という職場を知ったのは、学内で開催された博士・ポスドク向けの就活説明会でした。自分でも知っているようなメーカーが多く参加しているその説明会に、特許事務所が1社だけ来ていたんです。あまりに異色で周りは興味はなさそうでしたが、なぜか私にとっては非常に目を引く存在でした。
ほとんど人のいないブースに入ってお話を聞いたら、その人が実は事務所の所長さんで、「研究のコンサルティング、研究者支援」というコンセプトのお話をされていた。「ああ、自分の理系のキャリアを自分が直接研究すること以外に活かせるキャリアがあったのか」と、研究者には向いていないが、これまで研究してきたキャリアは活かしたいと悩んでいた自分に刺さるものがありました。そこから、「アカデミックを中心に研究をがんばる友人や先輩たちをサポートできる仕事」に軸足を置いて、特許事務所や知財について調べ始めました。
知財のことも業界のことも全く知らなかったので、説明会に行って弁理士さんに「弁理士資格ってどれぐらいで取れますか」って言ってイラっとされるような就活生でした。内定してから弁理士試験の勉強を始めましたが、そのときは拒絶理由通知と拒絶査定の違いすらわからなかったです。
特許事務所への入所、弁理士試験合格
就職活動を経て、弁理士法人オンダ国際特許事務所(以下「オンダ」)に就職。決め手は何でしたか。
家業が農業を営んでいることにも関わるのですが、いろいろ調べているうちに、知財には種苗法という法律があることを知りました。種苗法で調べると、オンダが検索結果のトップに出てきました。さらにオンダには岐阜オフィスがあり、トヨタ関係の仕事を多く受けているということから私の生まれ育った環境とも関係性が深く、ご縁のようなものを感じました。
そこから2020年4月入所予定で無事内定をいただけました。その時期はちょうどコロナの第一波ぐらいの時期で、内定取消などのニュースもあって入所できるか不安だったのですが、無事入所することができました。
博士課程を半年前に退学し、岐阜の実家に戻り、名古屋の資格予備校で初学者コースに通いました。半年間死ぬ気で勉強し、8割方合格する感覚まで行ってから仕事を始めたので、法律知識は一定程度ある状態で入りました。
お仕事はどのように覚えられましたか。
最初の何ヶ月かはビジネスマナーの研修がありました。挨拶やお茶出し、名刺交換の仕方など、基本的なマナーを教えていただきました。特許事務所としては相当珍しいんですけれど、そこまでしっかりやってくださった。
実務によるOJTは、国内の明細書を書く仕事から始まりました。書いたものをひたすら先輩に見てもらって、1件1ヶ月ぐらいかけ、それでも先輩に引き取られるようなこともありました。そんな私に先輩が丁寧に議論を重ねてくださり、色々と経験を積ませてくださったおかげでだんだんとできることが増えていき、自信もついてきました。何も知らなかった私が今なんとかやっていけるのも、オンダの皆さんによくしていただいたおかげです。
入所前にご自身でできることをしっかりやっていたのは、アドバンテージでしたね。
そうですね。 もし特許事務所に就職するのであれば、弁理士になるかどうかはともかくとして、弁理士試験の勉強はした方がいいと思います。入った後の仕事の加速度も全然違う。 先輩から会話しやすくなるし、認められる率というか、「優秀そうだ」っていうハードルを上げてもらえて、面白い仕事をたくさん回していただきました。
私の場合、入所前に試験勉強には区切りをつけるつもりでやって、入所後は実務書類を書く、アサインされた分野の技術を勉強するなど、実務の勉強に注力しました。
主にインバーターなどのアナログ電気回路、自動運転制御を中心に、電気機械・構造系を担当。技術分野の勉強にあたっては大学の時の分厚い教科書を見直したりしていました。
入所された年に弁理士試験に合格。入所からの合格は最短記録だったとか。
8月に勉強を始め、その翌年の5月が本当は短答試験だったのですが、コロナの影響で試験日程が遅れ、そのおかげでもう少し粘って勉強できたのが大きかったと思います。
そこからは弁理士としての仕事ですが、実務資格を持っていても経験がないので、先輩について行って仕事をやらせてもらうというようなやり方でした。
働き方と仕事の内容を見直す
オンダで経験を積んだのち、現在の弁理士法人IPX(以下「IPX」)へ転職されます。
オンダには1年と8ヶ月在籍し、2021年12月付で退職しました。
私自身は転職する気はなかったのですが、知財塾で明細書作成ゼミを受けていたことがあり、そのファシリテーターをIPXの奥村が務めていました。 そこでご縁があり、色々お声がけいただいた結果、入所することになりました。
オンダに残る選択肢もありましたが、当時のIPXは大学関係の仕事も多く、大学の研究者支援をしたいと思ってこの業界に入った私にとって、IPXの方が「アカデミックを中心に研究をがんばる友人や先輩たちをサポートできる仕事」というやりたいことに近づけると感じたんですね。
それから、フルリモートで東京に来なくても働けるのは大きかった。 より当初のモチベーションに近く、なおかつ東京に行かなくてもよいという先方からの打診の結果、転職を決意しました。当時は関東以外からのフルリモート採用者は初めてで、IPXとしても色々と悩んだことと思います。
現在は主に大学、研究所、ディープテック系スタートアップを中心とした、物理関連全般の特許を扱っており、技術分野のマッチングの観点でもよい縁だったと思います。
IPXに入所されて、やりたいことが実現できている状態とお見受けしているのですが、この先のキャリアの展望はありますか。
国内の権利化から外国の権利化まで一通り業務経験を積めたので、訴訟実務など、弁護士さんがやっているような仕事にどこかで携われたらと思っています。そのために付記試験の資格を取ったりしました。
出願・権利化でできることって限られてるので、その前提になっている契約やビジネスの座組、実際作った権利をビジネスにどう活用していくのかを考えるような実務経験を今後は積んでいきたいなと思ってますね。
私自身は独立できる力をつけたいというのが第1にあるのですが、本当に自分がやりたいことが今の組織じゃできなくなって初めて独立を考えるのかなとは思っています。
知財塾で運営に携わられているオンラインイベント「チザイかたりば」や、YouTubeへの出演などの外部活動も積極的になさっています。これらは仕事に繋がっていますか。
業界の中での人脈というか顔見知りが増えるところで役に立ってます。 弁理士としての働き方は多様でいいかなとは思うんですけれども、将来独立したいとか、単純に人と話すのが好きとか、そういったところでメリットを感じる人もいるんじゃないかなと思います。
自分にとっては、自分のような人間が業界にいるという認知が取れたことがメリットです。同じ業界で活躍してる人から、「なんか変なのがいるぞ」って見てもらえる。弁理士の会員活動も同じ。会務活動に参加するとお偉い先生が結構いらっしゃるので、そこで「若いやつがいる」って多少認知度が高まるかなと思います。
もちろん、やったことがないことは怖いこと。私も最初にYouTubeに出たときは戦々恐々としていました。1回挑戦してみて、合わなければやめるくらいの気持ちでやってみるのがいいのかなと思いますね。
弁理士試験の勉強方法
今から弁理士の勉強をしたいと思ってらっしゃる人たちに、 合格に向けた効果的な勉強方法などあればぜひ教えてください。
講師や先輩と仲良くなり、勉強仲間を作りましょう。1人で勉強できる人もいると思うんですけれど、私は苦手だった。勉強を続けられる仕組みをどうやって作るかが一番重要でした。
先生がいつも「〇〇さんはどう思いますか」って声をかける人だったり、よく発言するなと思った人に声をかけて、連絡先を交換したり、ランチに行って「さっきの質問ってどういうところが気になったんですか」と自分の疑問に思ったことを聞いてみる時間などを大事にしていました。
質問することってとても大事だと思っているんですけれど、その分野について知識のない段階では、そこで話される言葉も概念もわからないし、そもそも理解するために誰に何を質問すればいいかもよくわからない状態。そんな状態で自分1人で考えたところでどうしようもないわけです。そんなときにこそ、私は教室で他の人が先生に何を質問しているか、めちゃくちゃよく聞いてましたね。
仕事の場でも、「これ難しくて何とかなりませんか」って正直に声をかけてみたりとか、「最近こんなの食べたんですけど」って軽い雑談で周りと仲良くなる。「何もわからないから一から教えてください」は相手の時間を奪ってしまうので、自分なりのやり方、仮説、疑問を持ち込んで質問をするようにしています。
やっぱり、人に頼る。自分でどこまでできるかやってみて、これ以上時間をかけてもどんぐりの背比べになりそうだと思ったら、さっさと聞く。これの繰り返しでした。
それから、話を聞いてアドバイスをくださった方には「教えてもらってありがとうございます」ってお礼を言うようにして、自分が気持ちよく勉強できるようにしようと意識していました。
あとは、演習は本番形式でやらないようにしていました。
先に模範解答を見てから自分で書いてみる、お手本を模写する。受験勉強でよくあるやつです。有用かなと思います。
それから、模範解答をひたすら音読。毎日音読して、見なくても音読できる場所を増やして、問題を解けるようにしていくトレーニングをやっていました。
事務所の仕事でもこの方法は有用で、先輩の書いた明細書をひたすら全部1から読むこともしていました。段落番号一つごとに先輩はこの段落でこんなことを書いている、どういうてにをはで書いている、というのを全部見て、パターン化されている文章をAIのように研究し、自分も同じように書けるようにと練習していましたね。
立ち止まったときに、知財業界へ
これから知財業界への就職・転職や、弁理士試験に挑戦される方に向けて、メッセージをいただけますか。
知財業界は、何をやっても無駄にならない業界です。今までやったことを捨てたくないけど、今までの経験を生かしながら、どんな仕事でもできるから楽しい業界です。
例えば私だったら博士課程の研究は今役に立ってますし、一時期ハマっていたテレビゲームですら役に立っています。何をやっても結局は役に立つのでいい業界ですよ。個人的には今の仕事に疲れて落ち込んで別のキャリアを考えている人にこそちょっと見てほしい業界かなと思ったりはしてます。
その心は。
この業界って、いろんな人がいるんですよね。
企業で研究者やってた人が入ってきたり、法務やってた人が入ってきたり、私みたいに博士でうまくいかなかったりした人もいます。いろんな失敗を経験した人が多いので、いろんなキャリアを含めて受け入れてくれる土壌のある、懐の広い業界です。
バリバリやりたくてキャリアを積みたい人もいいですけれど、今やってる仕事に立ち止まったときに、目を向けてみるのもいい業界じゃないかなって私は思ったりしています。
最初はどのような業界かわかりにくいかもしれませんが、ぜひいろいろな人に声をかけて話を聞きながら、興味があればぜひ足を踏み入れてみてください。
ありがとうございました!
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