知財業務の幅と深みを広げる、知的財産アナリストの仕事とは?

公開日: 2024-08-19

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今回は、三井化学株式会社 研究開発企画管理部の佐藤貢司さん(弁理士・シニア知的財産アナリスト)に、これまでのキャリア、弁理士・知的財産アナリストとの出会いと、シニア知的財産アナリストとして見る知財業界について、お話いただきました。


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社内異動で様々なキャリアを経て、知的財産部へ

本日はよろしくお願いいたします!まずは、自己紹介をお願いします。
1993年に帝人株式会社に入社して、最初は研究職としての配属でした。ポリエステルという、皆さんよくご存知の糸を使って、エアバッグなど工業製品周りの研究開発をしていました。5、6年経って営業に異動。そのあと、工場で生産管理、品質管理、本社に戻ってテストプロダクトの立ち上げに関わり、知財部に異動します。
2010年ごろ、知財戦略というような言葉が流行り、これからは知財部が知財戦略を立てると言われる時代でした。その波に乗り、知財戦略・企画系の組織を作ろうと、いくつかの部署から人が集まったところに呼ばれました。ここから情報分析のキャリアが始まります。
せっかく知財部に来たので、弁理士の資格を目指し、合格して弁理士登録しました。それから、知財戦略立案に必須の情報分析を勉強しなければと、社外の勉強会などを調べていて、知的財産アナリストという資格があることを知り、講座を受講しました。
2018年、ご縁があって今の三井化学株式会社に転職し、シニア知財アナリストの資格も取得しました。IPランドスケープの仕事をしていましたが、現在は研究開発企画管理部という部署に移り、研究者が自分で情報分析できるようになるための人材教育を担当しています。

社外ではセミナーやグループワーク形式の勉強会、書籍や論文などを出させていただいています。知的財産アナリストもコロナ禍になってからリアルで集まれなくなった部分もあり、オンラインで情報交換できる場「IP analyst Personal Link いっぷる」の企画もやっています。個人での活動というよりは、実務に悩まれている皆さんとの交流・共同したものが多いです。


研究開発、営業、品質管理を経て、知財部へ。異動は会社の意思で決められることも多いと思うのですが、知財部への異動について、当時はどのように思われましたか。
各部署で自分のやりたいことが自分でできるようになり、次はこうしたいと思う時期での異動でした。色々経験してきたので、あとはもう知財部しかないかなとも思った。行くんだったらこういうとこだろうなと思う部分はありました。


知財職の魅力や面白さを見つけられ、転職も成功されています。佐藤さんの知財職としてのキャリアは、なるべくしてなったというか、行くべきして行ったようにも見えます。
何となくやっていた業務のやり方が弁理士試験や知的財産アナリストの講座を通して整理されて、頭の中がすっきりしたところではありました。家族にもよく言われるのですが、理屈っぽくて面倒くさい人間なんです(笑)。知財とか法律関係とか情報分析とかみたいなことって、性に合ってたんだと思います、正直なところ。


知的財産アナリストのキャリアと、必要なスキル

今回のメインテーマである知的財産アナリストという職業についてお伺いします。取ろうと思ったきっかけを教えていただけますか。
特許とコンテンツ・ビジネスプロフェッショナルという2つの認定講座があります。両方受けたんですけど、そもそも知財戦略ってどういうものでどういうふうに作るとか、きちんと理解できていなかったんですね。誰に聞いたらいいかも探り探りのところがあって、調べていくうちに知的財産アナリストに辿り着きました。
講座は4日間と比較的短期で受けられるし、広範囲にいろいろ教えてくれるし、資格にもなる。勉強したことの到達点として合格不合格があるところもいいなと思ったのが、受講のきっかけです。


知的財産アナリストの先には、シニア知的財産アナリストという資格があります。
このシニア知的財産アナリストという資格、僕が知的財産アナリストを受けたときはなかったんですよ。少し後に、上位資格を作ろうと協会の方が言い出して、そのお手伝いをしていました。1回目の試験は惨敗したんですけどね。


惨敗!そうなんですね。
そうなんです、そのまますっと行くかなと思ったら行かなかった。自分の今の業務の進め方や業務の中だけでやってる不足感みたいなものを感じました。
ちょうど転職して中途入社の部下が入ってきて、その方も知的財産アナリストだった。上司になる以上、上位職としての矜持というか、かっこつけのためにお尻に火がついたところもありました。


「不足感があった」と仰られましたが、不足を補うためにどんなことをされましたか?
社内での特許分析って、分析結果の報告が主なんですよね。競合他社等の状況、製品に関する新技術がどうとかっていう特許周りの報告をしますし、社外の勉強会でそれをやっても、報告書のテクニックに終始することも多かった。
でも、シニア知的財産アナリストは、そこから先の視点が求められます。研究の前提に事業があって、この先こうしようという提案や戦略、事業のその先に着眼する。報告書も研究者向けではなく、研究所長や事業部長など、組織の意思決定をする人たちに向けて、分析の結果、そこから見えてくる次の打ち手をわかりやすく伝える必要がある。そんなことを意識して2回目の試験にトライしました。分析が10ページぐらいの報告書で特許分析が2ページぐらいしか出てこないものに大幅に作り変え、合格しました。


知的財産アナリストになられて、生かせる・強みになると感じられた部分はありますか?
研究の話だけにフォーカスするんじゃなくて、一歩引いたというか上がったというか、研究が達成しようとする事業の全体像を頭に置きながら話すことを意識するようになりました。
一歩引いてるだけで発言すると、なんか嫌なやつになっちゃう。研究部門が言ってることと事業部門が言ってること、同じこと言ってるけどかみ合わないとか、同じようなこと言ってるのに全然違うこと言ってるみたいなことを、一歩引いたところから見て整理して、伝え直す。繋ぎというか、翻訳者のような立ち位置です。
特許マップを使ってもいいし、彼らに伝わる言葉に言い換えてもいい。いろんな部署を経験してる自負はあるので、研究者がこういうこと言ってるときはこんな感じで話するよねとかみたいなことも雰囲気はわかる。自分の知財職以前の経験も生かせると感じています。


知的財産アナリストになるために必要なスキル・キャリアは、どんなものだと思われますか。
資格取るだけだったら認定講座と試験を受ければいいと思うんですけど、実務で生かしたいと思うと...変なこと言ってるけど、まずは一般的な普通の会社員としてのスキル。文章が書けて読めて人に伝えられること。知的財産アナリストだから特殊な会社員ということではなくて、まず他の部署ときちんと話ができる、意思疎通ができるのが大前提だろうと思います。
そのあとに知財の知識。知識とは、法律の条文を知っているということだけではありません。この知財状況とその事業を関係させると、こういうものが必要になります、という思考。事業に対してどういうふうに知財を使うのか、咀嚼して返すスキルっていうのが必要というか、相手から見たら喜ばれるだろうなと思うんですね。
どうしても「29条の2が」みたいな話は気持ちいいんですけど、受け手には何も伝わらない。そうならないような意識づけとかスキルセットはいるんだろうなと思います。
それから、情報分析するので、ITスキルは必要です。情報分析を正しくできなきゃいけないし、検索調査みたいなところもできなければいけない。
そして、めげないことですかね。そうは言ってもいきなり全部うまくいかない。仕事相手から「何これ」「何始めたの」みたいなリアクションも受ける。最初の頃は「何言ってるかよくわからない」みたいな話も多いと思う。それにめげずに何回もトライして、ブラッシュアップしていく仕事なんだろうとは思います。


コンサルティング・マーケティングなどの知識も必要と思われるのですが、具体的に学んだ経験だとか、普段の業務の中で意識していることがあれば、お伺いしたいです。
2000年代ぐらいにコンサルブームがあり、外部のコンサルが社内に入ってきてやり取りもあったりして、コンサルさんってこういうふうに仕事をしていくんだなという雰囲気はわかっていました。
それから、事業部門と話すときに何かそういったベースで話すと話が通りやすそうだなと気づいた。マーケティングのフレームワークをつくり、あなたの考えはこういうことですよね、こういう構想ですね、みたいな枠組みを絵にし、そこに知財の話を放り込んでいく。相手の土俵で話すことで誤解がなくなると思います。
誤解のないよう共有化する意味では、弁理士が得意な文字ではなくて、絵にするとわかりやすい。マーケティングのフレームワークは大概のビジネスパーソンは知っているので、フレームワークや図にして考えるために書籍でインプットしたりして、わかりやすさは意識しています。


メンタリングサービスのメンターとしての今

知的財産アナリスト、シニア知的財産アナリストときて、現在は「知的財産アナリストメンタリングサービス」でメンターをなさっておられます。
僕みたいに業務でやってた延長に知的財産アナリストがあるというより、知財部の先輩から「この仕事するなら取って」みたいな格好で資格だけ取られた方、いると思います。
そういう人は会社に戻ると、授業で教わったのと違うとか、思い通りにならないこともあるでしょう。中堅ぐらいの方は今後のキャリアをどうしようっていう悩みもあるでしょう。そんな悩みを聞く場があった方がいいかなと、メンタリングサービスが立ち上がったと認識してるんです。
今はメンターを担当させていただいてますが、何となく色々話してると勝手に自分の中で頭が整理されていくことってあるじゃないですか。
だけどそんな悩みは会社でも、家族や友人、パートナーにもなかなか話せない。同じ業界でちょっと斜めにいる人間にただ聞いてもらうだけでも気が晴れるというか、頭の整理になるかなっていう気持ちでやらせていただいてます。


メンタリングは6ヶ月で6回。どんなことをお話されるんですか。
僕のお話させていただいてる相手はやはりキャリアへの悩みが多い。今までどういうふうになっていて、周りの状況がこうで、自分がどうなりたいのかなみたいなことを雑談ベースでお話してます。
自分が通ってきた道でもあるけれど、あまり僕の話はしない。参考にならないでしょう。だから「今どうですか」みたいに質問を重ねると、不思議なものでお話しながら勝手に自分の中で整理がついてくる。「ふんふん」って言ってるだけです、僕は。


佐藤さんが知的財産アナリストになられた当時、「メンタリングサービスがある」と言われたら、使ってみたいと思われますか。
そうですね、相談する場があったらよかったかなと思います。僕は知的財産アナリスト4期生で、まだ制度が始まったばっかりの頃でした。先輩もちらほらいるし、協会も手探り、先生も手探り。リアルでやってたのもあってそんな皆さんと直接会ってお話する機会が多かったので、そういう意味ではそこで今の制度みたいなものを実地でやってもらっていました。


コロナ前は基本的にリアル開催でしたものね。オンラインが増えてきたというのは、今の時代ならではなのかなと思います。
知財の人たちって、横が何やっているのか、よくわからないんですよね。営業や研究開発は何となくわかるけど、知財の、特に人数が少ない情報分析の領域って、他社がどうやってるかさっぱりわからない。だから、みんなどうやってるのって話は好きだし、聞きたい。同じ文脈で話せる人たちと話せる場は大事です。「悩んでいるのは自分だけじゃない」と思えますから。


これから知財のキャリアを広げていくため、知的財産アナリストに興味を持たれた方にメッセージをお願いします。
最近は知財業界もDXの話が多いですけれど、データ分析ができる人ではなく、データ分析を使って新しい提案やアイディア・発想をするとか、次に進めるための基礎としてデータ分析をどう使うかを学びたい、仕事に生かしたい方には特にいいんじゃないかなと思います。
そういう意味でいうと知財の人だけではなくて、研究の人でも事業の人でも経営企画でも、データ分析ってスキルを加えることで自分の業務の幅や深みを出せる。自分の業務のプラスアルファを考えたい方にはいいんじゃないかなと思います。
2000人ぐらいしかいないレアな資格なので、今ならまだ、業界で有名なあの先生たちにも気軽に「飲み会行きましょう」って言えますよ(笑)。

2000人って少ないですよね。
弁理士で1万ちょっとぐらい。弁理士自体も弁護士に比べれば少なく、その中でも特に知的財産アナリストなんかは業界の人間にしか認識されてないような資格です。分布なんか見てても、県に1人しかいないこともある。今なら「この県で唯一無二です」と言えるかもしれません。アナリストって今っぽくいいかなと思いますし、知財業界を覗いてみたい方にはいいのかなと思いますね。

県に1人しかいない人を見つけるのは、なかなか面白そう。「自分のキャリアは人よりちょっとだけ珍しい」と、他の方と差別化を図りたい方にもおすすめですね。知的財産アナリストの資格を実務で活用できるようになると、よりキャリアが広がりそうです。
本日はありがとうございました!


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