知財お仕事百景 #8 - 若手知財パーソン・藤原誠悟さん
公開日: 2025-07-29

知財業界で活躍する実務家のキャリアを深掘りするインタビュー、「知財お仕事百景」。
第8回は、若手知財パーソン・藤原誠悟さんにお話を伺いました。
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弁理士との出会いと、在学中の試験合格
自己紹介をお願いします。
藤原誠悟です。大阪工業大学知的財産学部と大学院の知的財産研究科を卒業しました。大学3年生のときに弁理士試験に合格。大学在学中から特許事務所で実際に明細書を書かせていただいたり、さまざまな経験をさせていただきました。
その後、新卒で素材加工系のメーカーに就職し、知財部門に配属されました。現在新卒4年目です。先月開業届を出し、副業で弁理士業を営んでいくための準備をしています。
弁理士という職業に出会ったのは、大学入学後のことですか?
はい。大学選びの段階で知財に興味があったというよりは、「ニッチな領域の大学の方が就活でライバルが少ないだろう、悪くなさそう」くらいの気持ちでした。高校のときは遊んでばかりいたので、入ってからはさすがにしっかり勉強しましたね。
大学には、資格スクールでの講師経験のある先生がいたり、弁理士合格を目指す学生が集うサークルがあったりと、学生の弁理士試験受験に向けたサポート体制が整っている環境でした。就職してから試験を受けるのは大変だろう、学生のうちに資格を取った方が時間もあるしいいはずだと思い、弁理士試験の勉強を始めました。
大学の勉強と弁理士試験の勉強は、どのように両立されましたか。
一般教養や民法・憲法なども講義としてはありましたが、特許法や著作権法など、弁理士試験に関係するような科目も多かったです。だから、試験勉強との相乗効果があり、両立の負担はかなり少なく感じていました。審査対応や知財戦略といった実務に近い講義もあり、それらは試験に受かった後の仕事のイメージがつくような内容だったので、楽しく受講していました。試験勉強は法律に関わるものばかりだったので、法律がこうやって使われるんだっていうような実務をイメージできる講義は面白かったですね。
どんな大学生活でしたか?サークルやアルバイトなどもされていたのでしょうか。
受験生のときは全然大学生らしい遊びはしていませんでした。同じ受験サークルのメンバーと研究室で毎日21時ぐらいまで勉強して、そこから研究室で料理して食事して、みたいな生活でした。アルバイトはできるだけ勉強時間を確保できるように、学内でできるものをしていました。ストイックな受験生生活だったので、合格後はひたすら遊びました(笑)。
そこまで弁理士試験にこだわった理由って何かあるんですか。あれもやりたい、これもやりたいって興味も、大学生活の中で広がるような年代かなと思うのですけれど。
受験サークルの先輩の後ろ姿が大きかったです。感覚的な話になるんですけど、「この人は絶対合格するな」というオーラのある先輩がいて。「その人達の背中を追いかけてたら受かるだろう」みたいなイメージができたのが大きかった。だから他のことを考える前に、先輩の背中を追いかけて、早いうちに合格しちゃおうって思ってましたね。
在学中の試験合格から、企業への就職
大学3年生で弁理士試験に合格。大学院を卒業するまでは特許事務所でアルバイトをされていた。
はい。実務に挑戦できるのが卒業後になるよりは、大学在学中に始められることは始めようと思い、特許事務所で修行させていただきました。僕がいた事務所は学生の受け入れが初めてのケースだったのですが、元々企業での経験がある、優しい先生が受け入れてくださいました。
そのまま事務所に就職する選択肢もあったとは思いますが、「新卒カードを切って特許事務所に来るのではなく、企業に行ってこい」って言ってくれていました。
特許事務所での弁理士として実務経験がある中で、今の会社に就職することを決めた理由や、何を軸に就活をされたかもお伺いしたいです。
まずは知財業務に就ける確約がほしかった。それから、IPランドスケープが流行ってきた時期だったので挑戦したいと思っていました。IPランドスケープを新卒で担当させてくれる会社は少ないですが、今の会社は配属枠があったので、それで決めました。
プラスチックなどの素材加工を行う会社なのですが、環境問題が大きくなっている中で、環境にある意味膨大な影響を与えている素材を使ってビジネスをしている会社だからこそ、そこでなされる研究には価値があるはずだし、環境にやさしい新素材を社会に広げるのも大事だと思っていました。
今、想像した通りの仕事はできていますか。
実は素材加工製品に関係する仕事はあまりしてなくて、素材加工で培った技術の基礎研究を違う業界に展開しようというような仕事が多いです。会社としてみたら環境分野に向けた研究開発は多いのですが、権利化するというよりは、権利を事業に展開させていく、IPランドスケープといわれる仕事ですね。
入社した時は、自分の専門性は特許事務所でやっていた権利化などの知財実務かなと思っていたのですが、やるにつれて「マーケティング楽しいな」っていう気持ちになっていきました。
どんなところに面白みがありますか。
研究者の方は、結構切実に困っているんです。技術はできたけど、その技術を使いたいと言ってくれる取引先がいないとか。そこにマーケットに対する筋道がつくこともつかないこともあるんですけど、技術自体はとても重要なものだと感じる。この技術を生かすための戦略を考えていくのはとても楽しい。机の上でする仕事というよりは、コミュニケーションをとりながら進める仕事なので、自分に向いている感覚があります。
企業で働かれる中で、身についたスキルやマインドセットはありますか。
知識でいうと、他部署とのやりとりを通じて、知財以外にもマーケティング、新規事業開発に関する知識が身について来たかなと思います。
マインドや感覚的な部分でいうと、チームワーク。研究者の方と事業部の方と私とで、どうやってこの技術をどの市場に持っていこうかみたいなのを調査分析しながら考えるのは、結構チームプレー、チームで働く感覚みたいなのが感じられていますね。
特許事務所の中での事務所内のチームワークって、お互いに専門知識を同じ方向性に持っていて、お互いに確認してブラッシュアップするみたいなものです。60%のものをチームで議論して、100%のアウトプットにするみたいな。一方で、会社は異なる部署・異なる専門性を持ったメンバーが同じ目標に向かって進む。25%ずつを4人で持ち寄って100%にする感じ。これは、事務所の中では得られなかった感覚だと思います。
知財実務とキャリアのこれから
今、AIを業務に活用していく時代ですが、知財実務にとってのAI活用についてどう思われていますか。使いこなしてパフォーマンスを上げていこうという感じなのか、AIに仕事が奪われる危機感があるのかとか。
AIはIPランドスケープのアイディア発想などに活用しています。特許分析で、時間をかけて出す結果と同等のものが今もうAIで出力できるなって。「こういう技術の展開先を探しましょう」となって、関連分野の特許を読み込んだりしていましたが、AIがデータベースから拾ってきて、こういうビジネスありますよって教えてくれる。今は自力で分析していますが、これいつかしなくてよくなるだろうなって思っています。
そうなると、勤務時間中ずっと人と話すような仕事だけが残るんじゃないかな。AIを使った上でここはAIがやっていく領域だろうという見極めと、その反面人間がやるべき領域はこっちだろうっていうところは、自分の中で棲み分けはできている感じがしますね。
そんな中、副業を始められます。これからどんなお仕事をされていく予定ですか。
副業は弁理士業で、権利化などを想定しています。他の事務所とパートナーシップを組んで、お手伝いで入る形が多いかなとは思ってます。今やっているIPランドスケープは知財の権利化の話になることってそんなに多くない。ただそこで権利化とかも組み合わせた提案を研究者にした方が相乗効果や良い影響が絶対に出るだろうと思っています。3年権利化の実務から離れると、感覚を忘れてきてしまっているところもあるので、現場感覚を取り戻せればと思っています。
20代で充実したキャリアを歩まれている藤原さん。これから知財業界で働いてみたいと思っている、特に藤原さんと同世代・後輩世代に対してメッセージがあればお願いします。
知財って結構クリエイティブな仕事かなって思っていて、昔から言われていた、机の上でコツコツやる仕事は割合としては少なくなって、IPランドスケープなどの新しい仕事が増えていく気がします。だから、「コツコツ文章を読んだり書けたりする人に向く仕事です」みたいなイメージじゃなくて、いろんな部門の人とコミュニケーションをとって橋渡しできるような、アグレッシブで明るい人がどんどん知財業界に増えてくれたらいいなという思いはあります。
コツコツ型ではなく、明るい人。どうやったら知財業界に増えると思われますか。
プロモーションだと思います。学生さんから見たときの知財業務のイメージが今Webで検索して出てくるような形だけじゃなくて、もうちょっとクリエイティブでコミュニケーションが重視されるような仕事も知財にあるっていう情報が届けばいいですね。
ご自身はこの先、どういう30代になりたいですか。
会社の中では、戦力の中心世代ですよね。僕は自分も頑張るけど、どっちかと言うと、新規事業を作りたい人、会社の1人1人の活動がより良くなる波及効果を発せられる人になりたいです。出世したいというよりは、自分の研究を社会に実装したいと熱意を持っている人たちと一緒に、現場で事業化を考えていける方が楽しいですね。あと、副業はしっかり回るようになってればいいなって思っています。
20代で弁理士試験を受けていなかったら、何をやっていたかわからない。中学のときは「公務員で5時に退社」、高校のときは「働きたくない」というような人間だった。弁理士試験の転機がなければ、仕事に対してやりがいというより、生きる手段みたいな感覚になってたかもなっていう気がします。自分にとって知財の仕事って、天職みたいなものかもしれませんね。
ありがとうございました!
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