知財お仕事百景 #6 - バード国際特許事務所・土橋文博さん

公開日: 2025-05-15

知財業界で活躍する実務家のキャリアを深掘りするインタビュー、「知財お仕事百景」。
第6回は、バード国際特許事務所で事務長を務める土橋文博さんにお話を伺いました。


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特許事務とは

本日はどうぞよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。バード国際特許事務所の土橋です。
元々、私の父が2代目の家族経営の特許事務所で15年ほど事務職として働いていました。事業承継の話を考え始めたときに現事務所の小林所長と出会い、事務所の合併に至ったのが2022年の1月です。今は事務職が私を入れて15名おり、私は事務長職を務めています。

特許事務所の事務業務(以下「特許事務」)は、具体的にはどんなものでしょうか。
特許事務は、一言でいうと、弁理士がその専門性を発揮する時間を確保するためのサポートです。
具体的な業務内容は、書類作成、特許庁への提出、書類の受領、管理システムへの入力、クライアント対応、納品、期限管理、経理処理等が挙げられます。事務所内での立場・役職が上がったり、個々の専門性を活かしていくようになると、事務所内ルールの整備、マニュアル化、効率化、DX化、業務調整、人材計画・人材育成等の業務にも仕事の幅を広げていくようになります。

土橋さんからご覧になる、特許事務の面白さとは。
特許事務の仕事は基本的に正解があることが多いので、その正解を探しに行くことに面白さを感じます。期限があり、用意しなければならない書類がある。クライアントや特許庁から情報を集め、その情報を決められた方式に当てはめていく作業です。
答えがある分、ミスに対してすごく厳しい目を向けられる側面もあるので、プレッシャーや緊張を感じながらではありますが、探しに行って正解を見つけてその通りに出して何も言われずにうまくいくと、すごく達成感があります。お客様に期待通りのものを提供できるところ、そこは誰でも楽しく感じてもらえるんじゃないかな。

弁理士の先生や技術者の方とのコミュニケーションも密にとっておられますか。
はい。同じオフィスで顔を突き合わせて仕事をする特許事務所が多いですが、弊所は弁理士・技術者がフルリモートワーク、事務スタッフが2拠点に分かれ毎日出社して勤務しています。
毎日出社は厳しいし、集団の中にいると作業効率が落ちてしまう悩みを持っている先生に対しては、自宅で集中して仕事ができる環境を提供できているかと思います。
勤務地・拠点が異なることによるコミュニケーションの難しさはありますが、週1回の全体ミーティングや、Slackやメールなどのツールを使いながらお互いの進捗を共有し、バードとしての品質が保たれる状況でサービスを提供し続けるよう努力しています。
有資格者・一般事務と立場の違うメンバーが同じオフィスに集まる難しさもあるだろうと思われますが、弊所にそれはありません。女性比率も高い職場ですが、心理的安全性を保てると評価してもらっています。
ただ本人たちにとっては安全ではあるものの、ともすればのんびりになってしまうので、我々マネジメントする側は現在の安定した業務運営を維持しつつ、さらなるサービス品質向上に向けたルールやマニュアルの整備・改善を続けていきたいと思っています。

特許事務に向いている方は、どんな方でしょう。
「コツコツ型」という表現をよくしています。目の前の作業に集中して一つ一つ確認し、淡々とむらなく作業できる人ほど向いている。社内で「だろう運転」という単語を使うことがあるのですが、確認が不十分なものほどミスがある傾向があるので、正確に作業できることは一つの適性であると思います。
ただ、これは特許事務に求められる役割としては一側面です。単純作業をひたすらこなしてもらう意味においては向いていますが、 AI活用やDX化など、業務効率化の手立てが出てきたときにコツコツ型だけでチームが構成されてしまうと、限界を感じるように思います。
ITリテラシーが高く、いろいろな作業を分析し、自動化する提案力や改善力を持った方が、これからは重宝されるのではとも思います。あとはやっぱりお客様とのコミュニケーション能力をもった人もまた求められる人材かなと思います。


未経験からの特許事務と、未経験者の採用

未経験で事務職に就かれる方は、特許事務所や弁理士についてご存知ない方も多いと思いますが、そのような方を採用される時には、どのような面に着目されていますか。
やはり一番はコミュニケーション能力を意識しています。
例えば「過去自分が何らかの困難に立ち向かったときにどうやって解決したか」とか、「自分の意見と組織が違う結論を出したときにどのようにアプローチしたか」とか。組織で動くとき、どのような価値観で動く方なのかを選考過程では一番に見ています。

クライアントや事務所メンバーと円滑なコミュニケーションをとれるかどうかを見ているということなのでしょうか。
そうですね。事務所ごとに文化があるのですが、経験者ほどこれまでの経験を最も正しい方法や考え方と思ってしまう傾向があるように思います。その正しさが、事務所にとってもお客様にとっても正しくない場合は、悲劇になってしまいます。これまでの経験を生かしつつ、今の職場ではどういう価値観で動くべきかを柔軟に考えられるとよいですね。そういう意味だと未経験者はまっさらな状態で来ていただけるので、経験者採用よりもかなり早いペースで環境に馴染んでくれる印象があります。

未経験の事務職の方々には、どのような教育の機会を提供されていますか。
OJTと外部研修ツールを並行して使っています。まずは作業手順に慣れてもらって、実際にアウトプットしてもらいながら仕事を覚えてもらい、最終的には後進の指導に回る。それを2-3年間でできるようなプランを検討しています。
彼らの成長のロードマップ・マイルストーンを整備していくことが、組織的にとっても本人の成長にとっても必要と感じていますが、事務所によっては「特許事務は単なる作業マシーンでOK」と思っているところもそれなりにある気はするんです。
なので、弊所としても制度のさらなる充実を進めている段階ではありますが、事務の方が事務所を選ぶ際に、「3年後・5年後・10年後、私はこの事務所でどんな事務になれますか」ということは、事務所側に聞いていただいていいと思いますね。 

求人を出す事務所側にとっても、その方がどのようなキャリア志向をお持ちかは興味のあるポイントです。そして、キャリア志向も濃淡がある中で、過去どのように自分のスキルを磨いてきたかも聞きたいテーマではありますね。 本人のご希望に合わせて事務所内でキャリア形成をしてもらいたいので、どういう思いを持って価値観を持って仕事をされたいかというところを見せていただいています。
スペシャリスト志向であれば、売上に貢献するだけの能力をつけられる機会を提供したいと思いますし、マネジメント志向であれば、作業者として詳しくある必要よりも、チームメンバーの1人1人の様子に目を配りながら業務を調整し、チームとして物事を走らせることができるようになればいいんじゃないかと考えています。


特許事務を経験した方の、その後のキャリアの広がりはありますか。
同業の方たちの話を聞くと、特許事務から技術者や商標弁理士になる方は一定数います。 
特許事務を経験して弁理士になると、事務に依頼するときのコツがわかるんですよね。「やっておいて」って頼んだ側が期待しない品質になったときに「どうしてそんな作業をしたの」ってなるところ、事務を経験していると「こういう指示・言い方ではそうなってしまうな」と気づけるので、お互いの視点を持てるという意味でもよいと思います。
それから、知識そのもの自体は生かせないとしても、特許事務所で経験した、正確性と期限を意識しながら書類を仕上げていく作業は、他の業界でも十分役立つだろうと思います。 
あとは効率化・マニュアル化についても、経験を積んでいけば他の業界でも活かせるという話をメンバーにはするようにしています。「新しいタスクがやってきたら、資料は引き継ぎ資料として利用できるように作るようにしましょう」「作業メモはそのまま引き継ぎ資料になります」「仕事は手離れ良く」と伝えています。答えが決まっている仕事は、その答えにたどり着けるスピードをなるべく短く、答えの精度を高くしていただきたいですね。


マネジメント職から見る特許事務と展望

事務長、つまりマネジメント職として、特許事務の仕組み化、DX化、制度設計にも取り組まれていると伺いました。
マネジメント経験がある弁理士が1枚噛んでくれたことによって、ここ1年ぐらいで加速的に物事が進み始めました。私は家族経営の17年分の経験のみでその点については出遅れていると自覚しているので、組織マネジメントやチームビルディング、ルール・マニュアル化は今まさに一緒に学んでいる最中です。 

業務フローを細かく分解すると、その作業者による意思決定が必要なものの他に、単純作業・繰り返し作業が存在します。その単純作業・繰り返し作業についてはDXが実現できるはずだと、今1人1人の作業を分解して自動化できる場所を探す取り組みを始めています。
事務としても、今までの作業を今まで通りするだけでは物足りない時代に来ている。作業を効率化し、ヒューマンエラーを減らして品質を維持向上するために、AI活用やDXを考えられる方は、この業界に来ても貢献度高く活躍できるんじゃないかなっていう気はします。 

もしこの仕事をやってなかったら、やってみたかったお仕事はありますか?
恥ずかしながらこの業界以外を知らない、生粋の知財っ子なのですが、自分が自信を持てる分野だと、クライアントとのコミュニケーションが取れるなっていうのは最近わかったので、知財営業はできる気はします。逆にそのコツコツ淡々とが苦手で、プロジェクトを進めるのも下手だなってこの2年で自覚しました(笑)。

ただ知財業界歴は長いので、楽しいですよっていうのはみんなに言ってあげたいんです。一言一句間違えたら駄目な仕事に、プレッシャーを感じて不安になることも多いと思うのですが、いつか楽しくなるから頑張ってほしい。
過剰な責任感が過剰な確認作業になり、本来好ましい時間での案件処理ができないことは我々にとっては不幸でしかないので、そのあたりを言語化してあげながら、ご本人のパフォーマンスを上げ、自信にも繋がる経験を積ませてあげられたらと思っています。


最後に、特許事務の仕事に興味を持つ読者の方にメッセージをお願いします。
特許事務所における特許事務は、まさに「縁の下の力持ち」となって、お客様と弁理士、特許庁と弁理士の円滑なコミュニケーションを支え続けるお仕事です。
専門的な用語も飛び交う業界ですが、未経験でも一つ一つ覚えていけば大丈夫です。日々の作業も地味で、ミスが許されない緊張感もありますが、案件が順調に進行したときには達成感を感じることもできると思います。細かい作業が好きだったり、サポート役にやりがいを感じるという方はぴったりかなと思います。

本日はありがとうございました。


最後までお読みいただきありがとうございました!
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