企業の商標業務におけるキャリア形成 ~求められる人材像や転職のポイント~

公開日: 2025-08-18

知財の仕事に興味はあるが、自分は文系なので特許・意匠業務がこなせるか不安・・・という方もいらっしゃるでしょう。ただ、知財の仕事には商標業務もあり、こちらの分野では文系出身の方が多く活躍されています。
そこで本記事では、文系をバックグラウンドに持ち、大手企業の知財部門で10年以上活躍されている企業内弁理士の方にヒアリングを行い、企業の商標業務の具体的内容や、求められる人材像、さらに商標業務が重要視されている企業の特徴をまとめました。
企業の商標業務に興味がある方は必見です。

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1.企業知財部における商標業務の具体的内容

企業の商標業務は、主に企業のブランドや製品・サービス名を保護・管理するために行われる業務です。
各企業の商標業務量は、企業の規模だけでなく、主なビジネス領域がBtoB(企業向け)またはBtoC(一般消費者向け)か、グローバルにビジネス展開しているか、商材・サービスの種類や領域がどれぐらい広いかで大きく異なります。
ただ、知財部門で取り扱う商標業務のほとんどは、以下の3つにカテゴライズすることができます。

① 商標権の調査・取得・管理

▷ 商標調査
新商品・新サービス名の候補について、国内外の商標データベースを用いて先行商標との類否調査を実施する。類似商標の有無や使用状況を確認し、使用可否を判断する。
▷ 商標出願・登録手続
調査結果をもとに出願プラン(国・地域、指定商品・役務の選定)を作成し、商標出願する(国内出願は社内で行う企業もある)。審査過程での拒絶理由通知に対し、登録できるように対応する。
▷ 登録商標の管理・維持
登録商標をデータベース化し、商標登録後の更新手続きを漏れなく行う。更新時には不使用商標の確認を行い、不要なものは非更新として商標ポートフォリオを最適化していく。

② 侵害対策

▷ 模倣品・海賊版対策
オンラインモール等での模倣品を発見した場合には、出品削除や販売停止の申請を行う。模倣品販売者に対しては警告書を送付し、差止請求や訴訟などの対応を国内外で行う。必要に応じて税関への差止申立てを実施し、輸出入段階での流通も防止する。
▷ 他社商標への対応
他社による類似・模倣商標に対し、異議申立てや取消審判、警告状・交渉などさまざまな手段で対抗する。他社からの侵害警告があった場合は、社内関係部門と事実関係を確認し、適切な法的対応を行う。

③ ライセンス交渉、社内教育、ブランディング支援

▷ 商標ライセンス関連業務
自社商標のライセンス提供にあたって、契約交渉および契約書の作成を行う。他社商標を自社が使用したい場合にも、同様の交渉を行う。締結後も、契約に基づく使用状況をチェックしたり、更新の条件交渉を行うことがある。
▷ 商標社内教育やガバナンス
社内教育を行い、商標の適正利用や調査・出願の必要性・ルールについて浸透させることで商標に起因するトラブルを回避する。事業部門とも連携し、ブランドガイドライン等の使用ルールを策定する。海外拠点とも協力し、グローバルで一貫した商標管理体制を構築する。
▷ ブランディング支援等
ブランド保護の観点から、必要な商標の出願や防衛策を提案する。ブランド価値向上に向けて、ネーミングや再命名を支援する。M&A・新規事業・アライアンスに際しては、商標リスクの評価を行う。
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上記のうち、①商標権の調査・取得・管理が業務の6~7割を占める企業がほとんどです。②③の業務は、法務部門が別途対応している企業もあります。
もし①以外の業務も経験してみたいなら、その企業でどのような役割分担になっているか確認されると良いでしょう。

2.企業の商標業務に求められる人材像

次に、企業の商標業務にはどういう人材が求められているのか。マネージャーの立場では、どのような人材を採用したいかを、中途採用の観点も含めて聞いてみました。

① 知財・法務の専門知識がある人

商標法や関連法規の理解が深く、出願・管理・異議・侵害対応など一連の業務を正確に遂行できる人材を採用したい。事務所や企業で知財・法務の実務経験が1年以上あると望ましい。
ただ、商標業務の経験がなくても、②~④で挙げる適性があればキャッチアップできるので、必ずしも実務経験がマストではない。組織の年齢構成や、育てる余裕が現時点であるかで判断する。
実務経験がない人を採用する場合、自社に近い業界の出身かや、知財検定などの資格を取得しているかも参考にする。ポテンシャル採用になるので、他の適性を満たすかはシビアに見ることになる。

② 調査・分析力に優れた人

商標調査やリスク分析が商標業務では頻出するため、調査・分析力は重要なスキルとなる。
調査では商標データベースだけでなくGoogle検索や業界紙の調査を行うこともある。また、類否判断では先行例を参考に判断していくので、情報分析力が生きる場面が多い。
実務経験があれば、ある程度の調査・分析力があると推定できる。もし実務経験がない場合、あらかじめ自社の商標出願状況をチェックして、どういう傾向がありますねなど、面接でPRしてくれると調査力がありそうと考える。前職でどういう仕事に就いていたかや、その成果も参考に適性を判断する。

③ コミュニケーション能力・調整力が高い人

商標業務では事業部門や法務部門、海外販社など他部門との連携が多いので、コミュニケーションスキルは常に重要である。他社との交渉においても、自社の見解を押し付けるのではなく、双方の立場を理解しつつ適切な対応を図れる人を採用したい。
海外ビジネス展開が進んでいる企業では英語力もあると採用で有利になる。ただ、AI翻訳ツールが進化したので、英語力はマストとまでは言えなくなっている。海外代理人とのやり取りの際に、自社がやりたいことを適切に整理して伝えられる能力こそが求められる。
元営業・開発・マーケティング担当など別業種からの転職希望者の場合、このコミュニケーション能力・調整力を重視して面接することが多い。

④ 案件管理能力があり、責任感が強い人

調査・分析力やコミュニケーション能力が高くても、意外と案件管理能力が低い人もいる。商標管理では、更新チェックやポートフォリオ管理も重要なので、漏れなく管理できるかも必要な資質である。
また、模倣品対策や係争対応などリスク管理に関わる業務もあるため、責任感も大切である。社内で「ダメなものはダメ」と言わなければならない場面があり、その時に必要な資質である。
一方で頑なになりすぎず、会社にとって最適な回答を導き出す柔軟性も大切であり、③と④を併せ持つことが望ましい。

3.「商標業務」を重要視する企業の見分け方

知財部門があっても、社内で特許業務のウェイトが大きく、商標業務は知財部門のサブカテゴリという企業もあります。そのような企業だと、商標分野で入社しても、企業内でキャリアアップのハードルが高くなりがちです。
もし商標分野でキャリアアップを目指すなら、商標業務のウェイトが多く、社内の位置づけも高い企業を探せば、スムーズにキャリア形成できるでしょう。
そこで、商標業務を重要視している企業の探し方のコツも聞いてみました。

① 商標権を積極的に取得・運用している企業

企業における商標業務のウェイトは商標登録件数に反映されることが多い。商標ポートフォリオを戦略的に構築している企業は、商標件数がそもそも少ない企業に比べて、商標業務の専門性や裁量が大きくなる傾向がある。
気になる企業があれば、J-PlatPatで企業名を検索し、商標登録件数を見てみると良い。グローバルでの商標登録もWIPOのデータベースで簡易的に検索できる。登録情報から、企業の商標業務へのスタンスも読み解くことができる。

② BtoC分野で活躍している企業

消費者に直接商品・サービスを届けるBtoC企業は、自社ブランドの認知・イメージを大切にしており、商標業務の重要性も社内で理解されていることが多い。
例えば、ファッション、食品、化粧品、家電、雑貨、玩具・エンタメ、ITサービスなどのBtoC分野では商標業務が重要であり、社内での商標業務の存在感も大きい傾向がある。

③ ビジネスをグローバルに展開している企業

海外市場で広く事業を展開している企業は、海外の商標出願や侵害対策が必要となる。国内市場だけで商標業務が完結している企業よりも、業務量の多さ・複雑さにより、組織内でのポジションも高くなる傾向がある。
英語があまり得意でない場合、グローバル展開している企業の敷居は高くなるかもしれないが、これからの時代、海外に関する商標業務を経験しておくことはキャリアにも良い影響があるので、チャレンジすると良い。

④ 知財部門内で、商標チームが独立している企業

知財部門の中で商標業務専門のチームが独立して存在している企業は狙い目である。商標の専門チームがあることで業務の質も高く、商標戦略立案や侵害対策などにも関われるチャンスが多いため、商標業務を極めたい方に向いている。
なお、名が知れた企業でも1~2名で商標業務に対応している企業が大半であり、1つの目安として、商標チームに5名以上の所属者がいる企業は、商標業務を相当重視しているといえるだろう。

⑤ 知財の中でもブランド保護・模倣品対策について積極的に情報発信している企業

ブランド保護や模倣品対策に注力し、その取り組みを社内外に積極的に発信している企業は、商標業務を重要視していると言える。企業のホームページをチェックし、知財に関する情報発信が行われているかや、情報発信の中で商標業務についても触れられるか確認すると良い。
また、毎年経済産業省・特許庁が授与する「知財功労賞」で商標分野での受賞をしている企業は、商標業務の取り組みが大きいと評価できる。
様々な求人がある中、①~⑤の要素に複数当てはまる企業を探せば、商標業務のキャリアが深めやすいだろう。

まとめ

商標業務は、企業のブランド価値を守り、高めるうえで欠かせない知財分野であり、文系出身者でも十分に活躍できる領域です。調査・出願から侵害対策、社内教育、ブランディング支援まで業務は多岐にわたり、企業規模や業種によっても関与の幅が変わってきます。
ご自身のキャリアを商標分野で深めたいと考えるなら、商標への注力度が高く、組織的にもその重要性が認識されている企業を選ぶことがカギになります。自身の強みや関心にマッチした企業を見極め、専門性を磨くことで、組織内で大きな存在感を発揮できるでしょう。
本記事が商標業務のキャリア形成の参考になれば幸いです。

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